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リヒト戦記~辺境の滅んだ小国の再興記  作者: スタジオぞうさん


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16話 鬼人族

 鬼人族の里の入り口には木製の門があった。

 僕らが門に近づくと、門番が顔を出した。

 「おや、あんたらは狼人族に人族かい。こいつは珍しい。よくここに辿り着けたね。」

 「お初にお目にかかります。私はシューネヴァルト王国の侍従長だったヘルムート・フォン・トリーアと申します。こちらにおられるのは王子のリヒト・フォン・シューネヴァルト殿下です。鬼人族の族長にお話があって参りました。」

 トリーア卿が挨拶をすると、門番は少し驚いた表情を浮かべてから、族長のところに案内してくれた。

 門番は赤銅色の肌で4キュビット(※)近い体格だった。鬼人族の見た目は、大きいことを除けばあまり僕らと変わらないが、額に二本の角が生えていることが特徴だ。

 里の中を歩いていると、緑が溢れている樹海と違って赤土がむき出しになっている場所も多いことに気付いた。

 門番に尋ねると、ここは樹海の中では例外的に火の精霊力が強いんだと教えてくれた。

 樹海はイメージどおり木の精霊力が強いらしいけど、鉄を熱して鍛える鬼人族は火の精霊力の強いところじゃないと住めないらしかった。

 いろいろ話すうちに、鬼人族を迫害した帝国は嫌いだが、シューネヴァルト王国は良い国だったと話してくれた。


 「ほう、お前さんがシューネヴァルト王国の王子かい。そういえば先王夫妻には赤子がいたと聞いていたが、よく無事だったねえ。それで用向きは何だい。」

 トリーア卿が門番のときと同じような挨拶をすると、カヤと名乗った鬼人族の族長は僕を見て目を細めた。

 豪快な雰囲気の背の高い女性で、顔立ちは美しいが、一族を率いているだけあって眼光は鋭い。

 協力してもらえるかどうか、ここが正念場だな。

 「突然お邪魔したのにお会い頂いて感謝している。ここに来たのは私たちの装備を作ってもらうよう頼むためだ。」

 言葉を飾っても仕方ないと思えた。正直に話そう。

 「私たちは先日、狼人族と狐人族と共に、領主軍の獣人狩り部隊と戦った。不意をついて勝つことはできたが、装備の差を痛感されられた。

 私たち解放軍の青銅の矢は領主軍のチェーンメイルを貫けなかった。それに比べてこちらは皮鎧を着ている者が多く、命を落とす者もいた。弧人族の商人たちは頑張って装備を集めてくれているが、なかなか品質の良いものは手に入らない。」

 僕は族長を正面から見た。

 「今のままで領主軍と正面から戦えば味方に大きな犠牲が出てしまう。どうか、鉄の扱いに長けたあなたたち鬼人族に装備を作ってもらえないだろうか。」

 「ふーん、領主軍と戦うというのかい。あたしも亜人や獣人を迫害する今の領主は嫌いだけどさ。お前さんは何のために帝国と戦おうというんだい。お家を再興するためかい。」

 族長の目が鋭く光る。

 「私は若輩だが、歴史と地理を少しは学んだ。フランコルム帝国に正面から挑んで独立を勝ち取れるとは思えない。私たちが考えているのは、領主を追い出してから悪政の証拠を帝国に示し、帝国直轄都市になって自治を得ることだ。」

 「なるほど、確かに帝国の直轄都市は結構住民たちが思うように統治できるらしいね。だけど、滅ぼされた王国を再興しなくて良いのかい。」

 「もちろん、できるのなら王国を再興したい気持ちはある。でも、大事なのは領民が安心して暮らせることだ。」

 「ふふ、民のためと言いながら自分のために政治をする奴らは多いけどね。」

 「そのとおりなのだろう。ただ、私は最近まで職人の息子として育ったから、領主の悪政で苦しむ民の気持ちは分かるつもりだ。学校の同級生には獣人もいた。領主軍と戦うのは、王国の再興よりも、人族も亜人も獣人も安心できる暮らしを取り戻したいからだ。」

 これは僕の本音だ。旧臣たちには王国の再興を重視する者がいるけど、国の再興よりも町の人たちが安心して暮らせることが大事だ。

 僕の言葉をじっと聞いていた族長は、にっと笑った。

 「それこそが王国の良かったところさあ。鬼人族はエルフやドワーフと違って遠くから流れてきた亜人だしね。鉄の武器や防具を造るから帝国じゃあ危険視されてた。でも王国には、そんな社会からはじかれたあたしらにも居場所があったよ。穏やかな暮らしができたことには感謝してるんだ。」

 族長は少し遠い目をしてから、破顔一笑した。

 「よおし、分かった。あたしたちが腕によりをかけて武器と防具を揃えるよ。帝国軍の装備品に負けはしないさあ。それにしても、まだ若いのに、重いものを背負ってる顔をするね。あたしも試すようなことを言って悪かったねえ。」

 つかつかと歩み寄ってきて、族長は急に僕を抱きしめた。

 「ああ、まだ体も華奢だねえ。こんな若いのに重荷を負わせるなんて。」

 急なことに驚いたし、大人の女性に抱きしめられるのは恥ずかしかったけど、なぜか安心できるような感じがした。

 みんなが呆気あっけにとられる中で、メールス卿は剣に手をかけていたようだ。

 「あははっ、いい剣気だね。あたしと刺し違えてもこの子を守るって気概が伝わるよ。なるほど、この子は単にお飾りじゃなくて、あんたたちの頭領なんだね。」

 さらに族長は僕の後ろの方に目を向けた

 「ふふ、それに剣呑な気配もするね。あたしもそれなりのつもりだけど、気配だけでさっぱり見えやしない。すごい隠形だね。どうやら王子殿下はいろんな人に守られてるようだねえ。」

 族長が最後に言っていることはよく分からなかったが、鬼人族の協力が得られて良かった。


※1キュビット=約50cm

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