12話 初陣
獣人狩りに襲われる集落の周りに解放軍は布陣した。
その中に僕もいる。「殿下自らが出る必要はありません」と言われたけど、後ろから命じるだけの人間になりたくない。
それに、戦場がどんなものなのか実際に体験しておく必要があると思ったから、無理を言って参加させてもらった。
狐人族の斥候が報告に戻ってきた。
襲ってくる人数は100人くらいのようだ。正体を隠すために、獣人狩りはお面をかぶっているらしい。
「報告ご苦労。敵は集落を包囲してから一斉に襲撃してくるだろう。我らは事前の手筈どおり、敵の背後から踏み込む。」
メールス卿が指示をすると、皆が準備を始めた。
敵に気づかれないように、それぞれの位置につく。
ところで、獣人たちは仮面を付けていないが、メールス卿たちも仮面を付けている。獣人狩りと違って悪いことをするわけじゃないけど、王国の旧臣たちは今の時点で顔を知られたくない。
結果として、敵も味方も仮面を付けているという奇妙な構図になった。
夜の静寂を破り、怒声と悲鳴が聞こえた。敵が獣人の集落になだれ込んだらしい。
メールス卿の合図を受けて、味方は敵の背後から襲い掛かった。こちらは怒鳴り声など上げない。黙って刃を振るう。
相手の不意を突いたことから、こちらが優勢だ。
「誰だ」とか「何事だ」などという声が聞こえ、獣人狩りの連中は混乱していることが分かった。
敵が次々に倒れていく。
だが、三分の一くらいの敵を倒したところで、状況は膠着した。
敵の指揮官は優秀らしく、散開していた敵は集まり、密集陣形をとった。そのために複数の味方で敵を囲んで戦うことができなくなっている。
さらに敵が民家に火を放ったので周囲は明るくなり、夜目が効く獣人のアドバンテージもなくなった。
正面から向きあって戦うと、味方の被害も増えてきた。
敵の多くは鎖を編んだチェインメイルを付けていて、こちらの矢は貫通できない。
一方、味方は旧臣たちは古くても良い装備を持っているが、狼人族の多くは防御力の弱い皮鎧を身に着けている。どうやら装備の違いは大きいようだ。
そのうち、こちらに獣人がいることに気付いた敵の一人が、獣人の女の子を捕まえて盾にしようとした。
女の子の悲鳴が辺りに響く。
こうなったら危険でも突撃するようメールス卿に言おうかと思ったところで、敵の中に小さな袋が投げ込まれた。空中で袋の口が開き、何かが飛散する。
途端に敵は咳込んだり、目を抑えたりした。女の子を盾にしようとした敵も、その子から手を離した。
その直後、味方の矢が女の子を捕まえていた敵の額に刺さった。お面が割れて顔が見えると、メールス卿が「あっ」という声を漏らした。もしかして知っている顔だったのか。
額に矢がささった敵はどうっと倒れ、獣人の女の子はどうにか逃げ出したようだ。
弓の妙技に味方から歓声が上がり、敵は狼狽える。
この機を逃さず、狼人族の若者たちがメイスやこん棒を振るって敵に突っ込んでいく。チェインメイルは打撃には弱い。
「突撃!」叫びながらメールス卿が突進する。
続いて旧臣たちも突っ込み、僕も剣を抜いた。味方は叫び声を上げながら、卑劣な敵に怒りをぶつける。
道場で習い、樹海の拠点で訓練したとおりに剣を振るい、チェインメイルに守られていない敵の足を狙う。剣が人の肉を切り裂く感触は、正直言って気持ち悪かった。
これが戦場か。周囲には金属のぶつかる音や叫び声が充満している。鉄のような匂いは血の匂いだろうか。後ろから戦況を見ているときとは全然違う。
敵の密集陣形を崩してからは味方が圧倒的に優勢になり、敵は逃げ出していく。
ほっとしたら、急に吐き気がこみあげてきた。
膝をついてえづいていると、誰かが優しく背中をさすってくれる。顔を上げてみるとメールス卿だった。
「すまない、メールス卿。自分でも情けない。」
「殿下、誰でも通る道です。どうか気になさらないでください。」
僕自身はほろ苦い経験をしたが、ともかく味方は勝った。
獣人の里を守ることができて良かった。盾にされそうになった女の子も無事だったようだ。
勝利を祝う歓声が集落に響いた。




