11話 獣人狩り
狼人族と狐人族の協力を取り付けることができて、領主軍に対抗する戦力と補給の目途は立った。
領主に対して蜂起すると叛乱と呼ばれるだろうけど、領民を悪政から解放するために戦うのだから、僕らは解放軍と名乗ることにした。
後は必要なのは訓練だ。様々な種族の寄せ集めで、いきなり領主軍に挑むのは避けたい。
メールス卿は、小規模な実戦経験ができるとありがたいと言っていた。
何かないだろうかと相談していたら、狐人族からの情報で、樹海の中にまだ引っ越せていない獣人の小さな集落が獣人狩りに襲われることがあることが分かった。襲撃者は正体を隠しているが、領主軍の一部隊ではないかと疑われる。
そこで、獣人たちを守り、同時に経験を積むために獣人狩りと戦うことになった。
戦闘の主力は旧臣たちと狼人族だが、戦いは苦手でも身を隠すのが得意な狐人族も斥候をつとめてくれるようだ。
そして訓練を行うには、領主軍に見つからない拠点が必要だ。
獣人たちが協力を申し出てくれたので、樹海に拠点をつくることにした。樹海の中には木々がまばらで開けた場所もあり、そうした場所の一つを選び、旧臣たちと獣人たちが協力して、丸太を組んで建物がつくられた。
森の家と名付けられた拠点は平屋の小さな建物だったけど、それでも拠点ができたことをみんな喜んだ。
樹海では人族は迷ってしまうので、拠点から近い樹海の境界部分を連絡場所に設定して、合図を送ると獣人の誰かが来てくれることになっている。
本格的に蜂起の準備を進めるので、しばらく家には戻らないと両親に告げた。
父さんは「頑張れよ」と言って僕の肩を叩き、母さんは心配そうに「絶対に無理をするんじゃないよ」と言って送り出してくれた。
これからは森の家に寝泊まりすることになるし、家族ともあまり会えなくなる。
はずだったのだが、なぜか妹のエルナはちょくちょく拠点にやって来た。
人族が迷ってしまう樹海の中なのに、どうやって拠点の場所を突き止めたんだろう。
「あはは、森の中で私に秘密にしようとしても、そうはいかないよ。」とか妹は言っているが、訳がわからない。
妹は拠点の近くの弓の練習場に顔を出して、弓の腕前を披露したらしく、いつの間にか弓隊の一員になってしまっていた。いつの間に弓の練習をしていたんだろう。
このままずるずるという訳にもいかないと思って、妹をつかまえて二人で話をした。
「エルナ、ここに来るのは危険だから止めるように言ったはずだよ。」
「ん、危険だから私はここにいるんだよ。兄さんを守ってきたのは私だから。」
「病弱だった頃に僕をかばってくれたことは感謝してるよ。でも、今では僕も自分の身くらい守れる。まだ十分じゃないけど、本当はエルナを守れるくらい強くなりたいと思って鍛錬してきたんだ。」
体も大きくなったし、近所の道場に通って、剣の腕も磨いた。あの頃は領主と戦うなんて考えてもいなくて、ただ妹や家族を守れる強さが欲しくて鍛えてたんだが。
「兄さんが鍛錬してたのは、それが理由だったの?すごく嬉しいよ。でも、今でも私のほうが強いと思うよ。」
妹は華奢なのになぜか力も強くて、確かに剣でも勝てる自信はない。
「それでもだよ。戦場でもし怪我をしたりして敵につかまったら、エルナのような綺麗な子は酷い目に遭う。僕はエルナを危険な目にあわせたくないんだ。」
「兄さんが私のことをそんなふうに考えているのも嬉しいよ。でもね、私はいざというときに逃げる自信はあるし、一番危ないのは兄さんだよ。」
どう言っても妹を説得できず、なぜかトリーア卿も「エルナ殿は殿下のお側におられるほうが良いかと存じます」と言ってきた。
いつの間にか妹は獣人たちを含めて解放軍のアイドルみたいになってしまい、不本意ながら拠点に来るなとは言えなくなってしまった。
そうこうしているうちに、狐人族が獣人狩りが襲撃してくる日にちの情報も掴んできた。狐人族の情報収集能力にはメールス卿も感心している。
情報が正しければ、今日、獣人狩りがやって来る。
下弦の月が照らす中、足音を忍ばせて行軍する。
顔を見られないように仮面を被っているので、少し息苦しい。
「そろそろ着いたか。」
「ああ、気のせいか獣臭いぜ。」
「散開して集落を囲むぞ。一匹残さず捕まえるようにという領主様の仰せだ。」
やれやれ、栄えある帝国軍が獣人狩りとは。
だが、捕まえた獣人の人数に応じて領主はボーナスを弾んでくれる。民間人を相手に武器を振るうのは気が進まないが、相手は獣人だから、心は痛まない。
この部隊には、俺と同じように帝国の中でも獣人の人権を認めない地方の出身者が集められているから、妙な正義感で騒ぐ奴はいない。
それに、もし騒ぐ奴がいたところで、こんな田舎で少々問題が起きても帝国の中央は気にしないだろう。
捕まえた獣人たちは奴隷商に引き渡す。そのあとどうなるかは知らないが、まあろくなことにはならないだろうな。
気分のいい話じゃないが、世の中、綺麗事だけ言っていたら渡っていけない。
恥ずかしながら漢字以外へのルビの振り方をようやく理解しましたので、これまで書いたところも修正します。




