番外編 花畑薫は逃れられない
「母さん、起きろ!! もう昼も過ぎてるんだ。買い物なしでもいいのか!!」
「!! 勿論行くに決まってるでしょ」
俺の言葉に母さんは飛び起きた。酔いと眠気も覚めたみたいで、口調も元通り。甘えてくるのは変わらないけど。
「飯はどうする? チャチャっと作ろうか」
「なしなし。久し振りに外で食べましょうよ。勿論、その時は【変身】なしだから。それだけで時間を潰しくないし、メインは服選び。薫も着替え……男女どちらでも良い服を選んでおいて」
確かに【変身】は長くても二時間で解けるからな。それなら家で飯を食べた方がいいのでは? と思うのだが『デート、デート、息子とデート』と嬉しそうに化粧をする母さんには言い辛い。それだけ楽しみにしているのか……じゃなくて!!
「外で食べるのは良いけど、その前にコスプレを返しに行くぞ。それと食事と買い物は遠出しよう。学校を休んでしまったから、商店街で買い物してるのもおかしいだろ?」
学校が終わる前に【愚弟】に行って、別の場所で買い物しなければ、有野達と遭遇してしまうかもしれない。こういう時に限って、遭遇する事が多いからな。家の中から【変身】するのも無理そうだし。
「遠出!! 勿論よ。約束だから、コスプレも返すわ。【ウサニン】の着ぐるみが貰えても、荷物になるから駅のコインロッカーにでも入れたらいいしね」
「それなんだけど……母さんが返しに行ってくれないか? あそこで【変身】するわけもいかないし。この姿で行くと、奪ったみたいに怪しまれるかもだろ?」
俺の【変身】した姿は母さんに似てるから、姉妹と言われてもおかしくないはず。しかも、魔法使い、【魔女か真剣か】のコスプレを持っていて、昨日のモデルの事を知っていれば確実だ。
「そう? 薫がそう言うなら構わないけど。【ウサニン】の着ぐるみの事も言った方がいいのね」
「ついでにジャージも。あれが一番男女兼用で着れる服だからな。それと……名前を聞かれたら、適当に答えてくれ。花畑なんて本当の名前を口にしなくていいから」
昨日のモデルの事を考えると、海野と井上はもう一度【愚弟】に来てもおかしくない。その時の会話に花畑の名前が出たら、有野が食い付くかもしれないからな。
「適当ね……畑? 薫の名前はかおりにでもしておくわ」
と、こんな感じで決めていき、無事に【愚弟】でコスプレの交換も出来た。母さんも店長の姿に笑いそうになったと言ってたし、姉妹でモデルにならないかと誘われたらしい。
それは勿論却下。連絡先も交換してなかったから良かった。何処から【変身】の事がバレるかも分からない。
そして、母さん曰く、買い物という名のデートのために遠出した。遅めの食事をして、いざ買い物。
【変身】もバリアフリートイレの中で。ジャージを着るつもりだったけど、母さんの要望があり、色違いなだけの同じ服。男女兼用ユニセックスの服らしい。まぁ……母さんの普段着は男性よりの部分もあったからな。
「本当に姉妹みたいね。こうなると本当に楽しみだわ」
母さんは本当に楽しそうだから、今回はこれで良しとするか。ここまで来たら、有野達の事を気にする必要は……
「あれ? あそこにいるのは鉄先生じゃないの?」
「はっ? 学校はすでに終わってる時間だけど、こんな場所にいるはずは……」
本当にいた!! しかも、叶も一緒にいる。という事は有野も……