番外編 花畑薫は寝不足である
「それは母さんのプレゼントじゃないから。人に預かった物で返さないと駄目なんだよ。誕生日プレゼントは別に用意するから」
「えっ!! プレゼントじゃ……ない? 嫌だ嫌だ!! これが良い。可愛いし、サイズも丁度良いのも私のために薫が選んだの!! 違うの買ったって、サプライズじゃなくなるんだからね」
「おいおい……いい大人が止めてくれよ」
「ぶー!!」
母さんはぬいぐるみを抱えて、床を転がり続けて駄々をこね始めた。人様の前では生真面目というか、落ち着いているのが、一緒にいるのが俺だけになると子供化するというか、甘えてくる。子供の頃はそうでもなかったが、俺が母さんを助けるようになってからはこんな感じだ。ストレス発散というか、今までの反動というか……
それに加えて、酒も抜けきってないのが原因かもしれない。
「はぁ……誕生日プレゼント以外で、何でも言う事聞いてやるから。それだけは返してくれ。【ウサニン】の着ぐるみと交換なんだよ」
「【ウサニン】の着ぐるみ? ……その経緯を教えてよ」
母さんの動きが止まり、耳がピクピクと動いている。母さんも【妖怪の森】を一緒に見ていて、【ウサニン】好きなのは知ってる。
俺はモデルになった経緯を話した。勿論、有野の事は内緒だ。
「羨ましい!! 私も薫に色んな服を選んで、着させたいのに。全然買い物も一緒に行ってくれないのに」
「高校生になったんだ。流石に服ぐらいは自分で選ぶ。親と一緒に買い物に行くのもな……」
周囲から怖がられてるのに、母さんと一緒に買い物に行ったら何を言われるか……高校になって一度だけ行った時には有野と遭遇したのも原因の一つだが……
「一緒に買い物行って、服を選ぶの!! 男服が無理なら、薫が【変身】した姿の服を選ぶから。女同士の買い物なら良いよね。今日はお店も休みだし、薫も学校を休んで行くんだから……」
母さんはそんな事言いながら、眠りについた。これを無視して、学校に行ったとしたら、コスプレは無事に済まないし、天岩戸みたいに家に引き込もってしまうかもしれない。
「起きるまでにコスプレを返そうにも……母さんからそれを脱がせようものなら……」
想像してみると、変態でしかない。ここは潔く、母さんの言う事を聞いて、学校を休むしかないのか。
「はぁ……母さんが起きるまで、俺も睡眠不足を解消しておくか」
俺は日頃の新聞配達での睡眠不足を解消するために、眠りにつく事にした。
起きたとしても昼前ぐらい。学校が終わる前に母さんとの買い物を済ませようとしたんだが……
「とっくに過ぎてるじゃないか!! 母さんもいつまで寝てるんだよ。買い物に行くんだろ」
疲れが溜まっていたのか、目が覚めた頃には昼が過ぎていた。母さんは今もヨダレを垂らして寝ている。これなら、学校に行っても問題なかっただろ。