予想外の来客
「それでは写真を撮るわよ。カメラがスマホでごめんなさいね。本来、撮影は予約制でカメラマンやスタイリストが何人もいるのよ。今日は予約なしだから、販売と受付だけだったから」
店内のポスターにも説明が書かれているのを、蛍達が着替えている間に発見した。それなのに撮影するのは、店長が蛍と悟に魅力を感じたから。【沖田様】を見てしまったら、納得するしかないから。
「別にそこは気にしません。というか、さっさと終わらせて欲しいぐらい。本来の目的じゃないんだから」
蛍は【沖田様】の姿を気にいった感じじゃないみたい。オッサンが男装が好きかというと……難しい話なんだけど、私だとは言えないし。
「二人一緒に撮るんですか? なら、私もその写真を一枚記念に欲しいです」
「勿論よ。二人背中合わせで並んでね。陣子ちゃんと紗季ちゃんは一緒に映るのは無理だから、そこは許してね」
店長は蛍と悟を横に並べて、其々の決めポーズを指導してる。蛍には【沖田様】の三段突きのポーズが……
「……って!! 何で私と紗季の名前を店長が知ってるわけ?」
「兄を知っていて、漫画家となれば一人しかいないからよ。後から話を聞きたいし、学校の制服を作ってもいいんだから。勿論、着るのは」
店長は蛍の肩に手を置く。店長のお気に入りは蛍みたいだけど……
「それは無理です。モデルにされてるのに、更にそのコスプレするなんて」
紗季の漫画の制服は私達の学校のをベースして、アレンジを加えただけなんだけど、私も着るのはゴメンだわ。
「そう? そんな顔をしたら、折角の衣装が台無しね。この話は置いときましょうか」
蛍と悟のポーズが決まった。その姿に思わず鼻血が出そうになったのを内緒だ。私も写真を貰えるなら、貰いたい。
「いくわよ」
と、そのタイミングで店のドアが開く音がしたせいで、蛍と悟のポーズが解けてしまった。
「あら? また来客かしら。予約なしは本当に珍しいのだけど……貴女達が緊張するなら、時間をずらしてもらうように頼んであげるわ」
店長は来店した客の方に行ってしまった。私達がいるのは店の奥の方。無数のコスプレ衣裳が壁みたいになって、どんな客が来たのか分からない。
「流石に若杉は……」
紗季は呟くように『若杉』の名前を口にしたけど……アイツが盗み聞きしてて、ここに来ようとしてたなんて事は……ありえるかも。
「お客様……あらあら!! 良いわね。華があるわ。貴女もモデルになってくれないかしら」
店長は追い返すどころか、蛍と悟同様、来客にモデルを頼む始末。もしかして、来る客全員に……と思うけど、私達は誘われてないし……
「店長の目に叶うとは……どれどれ」
紗季はコスプレ衣裳を少し動かし、客を覗き見る。その隣で私も同じ行動を取る。そして、私と紗季は同じように固まってしまった。
来客は私と紗季が捜していたオバサンだったから。