魔法少女オジサン
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放課後。私と紗季、悟は蛍の願い通りに商店街にある隠れ家的なコスプレショップに足を運んだ。学校を出る時、小鳥遊先生に捕まりそうになったけど、白先生が朝の宣言通りに止めてくれた? まぁ……いつもは自転車通学だったから、帰りも送ってくれるつもりだったかもしれないけど……
「本当は着替えてから来るのが良いのだけど、今回は特別ね。時間が勿体ないもの」
蛍は風紀委員の自覚はあっても、オッサン関係になると別になるみたい。門限がある悟の事も気にしたのもあるかもしれない。
「聞いてるの? 私達の目的の場所は反対だから」
「いや……新作が出てたから。それも私の漫画仲間のキャラだからさ」
蛍は紗季の頭を軽く叩いた。コスプレショップの反対側、隣の店はフィギュア専門店で、紗季はそっちの新作を見ていたからだ。
「ここのフィギュアは全部、店の人の手作りだからね。値段はするけど、クオリティが滅茶苦茶高いの。知る人ぞ知る場所ね」
店頭に飾っているのは売り物じゃなく、本当に飾っているだけ。中も売り物もあるけど、主に美術鑑賞みたいなもの。基本、予約制。依頼が来たら作る形。
何度も紗季と覗きに行った事で、店の人と仲良くなったから知った事。見た目は厳ついサングラスのオッサンだけどね。
「それは凄いわね。けど、優先するのはこっちが先だから」
蛍はフィギュアには興味がないみたいで、コスプレショップ【愚弟】に入った。変な名前と思うけど、フィギュア専門店も【兄貴】だから似たようなものね。
「いらっしゃい。あら? 可愛い子猫ちゃんが四匹も。一体何を着たいのかしら? それとも洋裁依頼?」
店の中は広くて、清潔。コスプレもアニメ、ゲームから名前の順で区切られている。勿論、更衣室もいくつかあるし、鏡も至るところに設置されている。
「…………あっ……ごめんなさい。一度頭がフリーズしてしまって。その姿に驚いてしまって」
出迎えてくれたのが可愛い制服……魔法少女の服を着たオッサンだったから。サングラスと髭がついてるから余計に怖い。それにオネエ口調なのも……
「いいのよ。コスプレは自由だから、何を着てもいいの。それを証明するために着てるわけ。私がコスプレしてる事で、みんなが着るハードルが下がるのよ」
自らの体を張って、コスプレを広めようとするのは凄い事だけど、服はもっと選んだ方が良いと思う。
「というか、オジサンが何でここにいるのよ。隣の店はどうしたのよ」
私や紗季は別の意味で驚いた。コスプレショップの人が、フィギュア専門店の人と瓜二つ。本人だと疑ってしまう……といっても、魔法少女の服を自分で着る人ではなかったと思うけど……
「あら……兄の店の常連客かしら? 私は隣の【兄貴】の店主と双子の兄弟なのよ。勿論、兄同様に店の服や小物は私の手作りよ。依頼があれば制作するわよ。それに……貴女達二人が店のモデルを引き受けてくれるなら、一つは無料で作ってあげてもいいわ」
「えっ……私!?」
店長は蛍と悟の手を掴んだ。悟も自分が選ばれた事に驚いていたわけなんだけど……二人というから、私と紗季ではないとは思ったわよ。コスプレする気もなかったけど、そこは兄の顔を立てて、常連客の私達に声を掛けてもよくないか?