番外編 花畑薫は怪しむ
「やめとけ。有野のコスプレ姿はともかく、俺達がコスプレの店で有野達と偶然鉢合わせになるとか無理だからな。俺と若杉の組み合わせもそうだが、タイミング良く会うわけがない。後を追ってきたと有野や海野ぐらいは察すると思うぞ」
そもそも、若杉の行動自体が気持ち悪いというか……女子に嫌がられてもおかしくないぞ。
「見たい気持ちは分かるが、嫌われるの前提になるぞ。その前に……聞いてやったが、俺は一緒に行くつもりはないからな」
若杉と一緒にストーカー行動なんてしてみろ。更に弱味を有野に握られてしまう。そのうえ、海野の人気ぶりからして、彼女が俺達の行動を学校全体に広められたら、学校生活は更に悪くなる。
「そ、そんな……なら、有野に叶のコスプレ写真を一枚欲しいと頼むのは」
「それはお前がしろ。そこで有野に突っ込まれると面倒だし、俺自身が叶の事を好きだと有野達に勘違いされてもな」
そこは有野本人に頼んでくれ。値段は交渉次第。叶自身、若杉に写真を与えたくないだろうけどな。
「そんな事はしないぞ。陣子が写真を撮っても、渡すつもりはないしな」
「「…うおっ!!」」
俺と若杉は思わず、声がハモってしまった。というのも、教室にいたはずの紗季が壁越しでこちらを覗き見していた。
「珍しい組み合わせだったからな。少し抜け出してきた」
有野はニヤニヤとこっちを見てる。何処から聴いてたんだ? 俺が有野のコスプレを見たいと勘違いしてるんじゃ……
「盗み聞きするとか最悪じゃないか!!」
「どの口がそんな事を言うんだか……アンタ達の方が先でしょ。陣子達に伝えても良いんだけど?」
若杉の方が先に盗み聞きだけじゃなく、それを利用しようとしたんだからな。正論過ぎて、流石に言い返せないだろ……ん? 達!? 俺も若杉の仲間だと思われてるのか。
「薫は今回に関して許してあげるわ。若杉を止めようとしたからね。私のコスプレ姿を見れないのは残念だろうけど」
「おっ……おう」
有野のコスプレ姿が見たいと勘違いしてるようだが、若杉に巻き込まれないよう、ここは敢えて突っ込まないでおこう。
「や、止めてくれ。出来心だったんだ。聞いてしまったけど、未遂なんだから」
これは若杉も弱味を握られ、有野の漫画のキャラになるパターンか? それで無理難題の注文をやらされる……
「若杉もコスプレの店に来なければ許す。来た時点でアウトだから。好意というか、欲望丸出しは止めときなよ」
普通に注意して終わった……あの有野が!? 若杉のキャラは大概濃いぞ。相手にするのが面倒だと思ったのか!? 欲望丸出しとか、有野も人の事は言えないはずだが……
「薫を着せ替えするのは楽しそうではあったけど」
そんな欲望全快の事を言いながら、有野は残念そうに叶達が待つ教室に戻っていく。
(あんな事を言うなら、無理にでも俺を付き合わせる奴なんだが)
それが逆に怪しい。若杉とは違う意味で気になってくるぞ。
「た、助かったのか?」
「ギリギリアウトだぞ」
若杉はホッとした顔をしていたから、そこは釘を刺しておこう。




