番外編 花畑薫と若杉真琴
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(ふぅ……平和だ)
昼休み。俺は教室で一人、【妖怪パン】を食べている。誰も俺を見る奴はいないし、おまけとして付いているシールに新バージョンが入ったのを見ていられる。勿論、前回までのはフルコンしている。
教室には有野達四人が昼飯を食べながら盛り上がっている。その四人で何かするつもりなのか、朝から有野が一度もちょっかいをかけてこなかった。それだけで俺に話し掛けてくる奴はいないし、平和になるわけだ。まぁ……寂しくないわけではない。
(海野もいるわけだし、俺に何かする作戦を立ててるわけじゃないだろ)
何かコスプレという言葉が聴こえてくるが、メインは海野っぽい。有野がコスプレに興味があったのなら、俺に色々と着替えをさせようとしたはずだ。
とはいえ、警戒は怠ってはならない。井上が俺と同じ美化委員に入ったからだ。【透視】があるし、ウサニンやカメ老を手放す時が来るかもしれない。いや、有野が知ってる時点でアウトと言っても過言ではないのだが……
「な、なぁ……ちょっといいか? 頼み……話したい事があるんだけど」
「……俺にか? えっと……空気を読まない奴だよな。いや、欲望に忠実な男だったか」
同じグラスの男子が話し掛けてきた。俺の目の前にいるんだから間違いないだろう。すぐにシールを隠すのを忘れないが……珍しい事だから、周囲を確認してしまったぞ。
「若杉だ!! そんな風に覚えないでくれよ」
そうだ。若杉という名前だった。LHRや体育測定の時の行動で、そんな奴だと認識してしまった。
(何だ? 喧嘩を売る雰囲気でもないし、何かした覚えもないぞ。もしかして……美化委員に頼みたい事でもあるのか?)
「ここではちょっと……」
若杉は有野達の方をチラチラ見ながら、廊下に出るように促してきた。女子達に聞かれたくない話か? なら、俺に相談するのは間違ってるとは思うのだが……
断る事も出来るが……勇気を出して、声を掛けてきた奴を無下には出来ない。俺は若杉と廊下に出て、人が少ないところに移動した。
「……花畑は有野と仲が良いよな。LHRの時、有野があんな振りをするし、何度か話してるところも見た事あるし」
「……はっ!?」
何を言い出すんだ? こいつの目は節穴か? 俺と有野が仲良しに見えるなんて……俺は迷惑してるだけなんだが!!
「いやいや、あんな風にされても怒る様子もないし。普通に話せる仲ではあるんだろ。なら、俺と叶が仲良くなるのを協力させてくれないか」
……やっぱり、本当に欲望に忠実な男じゃないか。鈍感な方の俺でも若杉と叶は全く脈がないと分かるし、叶の方が逆に迷惑してる気がする。
「俺が有野に頼むのか? 無理だな。逆に漫画のネタにさせるのがオチだぞ」
有野自身も、若杉が叶に好意を持ってるのが駄々漏れだから気付いていると思うのだが、ネタにはされてないんだよな。
「漫画……そうだ!! 今日、叶達は商店街のコスプレの店に行くらしいんだけど、一緒に覗きに行ってくれないか!! その姿を見てみたいんだ」
俺は微かに有野達の声が聴こえただけだが、若杉は盗み聞きをしたみたいだな。それを覗きに行きたいなんて、ストーカーみたいだぞ……
「俺も一緒に行くのか!?」
「花畑も有野のコスプレ姿を見たいだろ?」
待て!! ストーカーの仲間扱いされるのは心外過ぎるぞ。