ピンチは突然に
「おはようございます。こんな時間から登校ですか?」
「ちょっ!!」
信号待ちの時間。蛍は小鳥遊先生の車の横、歩道に立ち止まってる。こっちには気付いてない様子だったのに、何で声を掛けるのよ!!
「……おはようございます。何か用ですか? 手伝いをするのは無理ですから」
昨日、私が小鳥遊先生の手伝いをしたから、今回は自分の番とでも思ったのかな? 蛍にしては年上相手に結構言葉がきつめだ。その言葉だけで、蛍は学校とは違う道を行こうとしてる。やっぱり、オッサンを捜してるんじゃ……
オッサンは車の中にいるんだけど、後ろにあった白衣を頭に被るというか、広げた事で身を隠した。小鳥遊先生がだらしないと思われたかもしれないけど、それは蛍に声を掛けた小鳥遊先生のせいだから仕方がない。
「手伝いは大丈夫なのですが……誰かを捜しているのですか?」
また呼び止める!? 大丈夫と思って、白衣を外そうとしたじゃない!! 紗季みたいに面白かってないよね!?
「そこも盗み聞きしてたんですか? 私は恩人を捜しているだけです。信号が青に変わりますよ。行かなくていいんですか?」
蛍は嫌そうな感じが声に出てる。悟の時も内緒にして欲しいと圧力を掛けたぐらいだし。圧力は無理でも、話を振るなって感じは小鳥遊先生も分かったはず……
「勿論、後ろに迷惑はかけられませんから」
それは私じゃなくて、信号待ちをしてる後ろの車だよね。視線を私の方に向けないでよ。
小鳥遊先生も薄々、蛍が言う恩人は私だと分かったかもしれないけど、避ける理由までは分からないでしょうね。正体がバレたくないのは勿論だけど、別の理由もあるから!!
「迷惑というなら、陣子にもです。一度引き受けて貰えたら、何度も頼めると思ってないですか? 他の人を選んでください」
まさに今がそう!! 蛍がそんな事言ってくれるなんて嬉しい。けど、原因の一つは蛍にもあるんだけど……
「それは考えておきます」
信号が青に変わった事もあって、小鳥遊先生は車を出発させた。考えておく=手伝わせるのを止めないって事でしょ。
「安心してください。彼女に叶さんが捜し人である事は言いませんから」
その言い方は脅してるようにしか思えないんだけど……私が車の中にいる事を教えなかっただけ良かったと思うべきか、このせいで余計な手伝いをさせられそうで怖い。
「脅迫にしか聴こえないんだけど……最悪、開き直るしかないんで」
強がりを一応言っておいて、距離が少し開いたところで、顔を少し出し、蛍の様子を見てみる。小鳥遊先生の車を睨んだりはしてないだろうか……
「って、男に絡まれてるんだけど!!」
蛍は読者モデル経験者で、美少女であるのは分かってるけど、ナンパされるのが多くない。しかも、こんな朝からナンパする奴がまともとも思えないし。
「道を聞いてる感じでもないですね」
小鳥遊先生も私の声に気付いて、車を車道に止めて、蛍の方に目を向けた。蛍は男相手に嫌がっているのが分かる。オッサンに助けを求める演技でもない。