ミッション インポッシブルS
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「それで……何でそんな風にしているのですか? 普通に助手席に座った方がいいと思いますよ。折角、お母様が服を用意したのに」
「これで良いんです。服といってもお父さんのだし、太ってると言われたんですよ。【変身】前は平均的なのに、痩せた方がいいって」
お母さんにカッターシャツとかを用意してくれたけど、少し大きかったんだけど、お腹の部分だけがちょっと……中年太りとでもいうのか……そこを注意されたから、人に見られたくないというわけでもない。
「見た目は関係なくてですね……きちんと座わない方が逆に怪しいというか……」
小鳥遊先生の言う事は尤もかもしれない。人の車の後部座席で身を隠している……というか、寝転がっているんだから。
これも外から私の姿を出来る限り見えないようにするため。もとい、蛍対策。真面目な蛍がいつ登校してるかも分からない。
それに私と紗季が二人乗りしていたのを、蛍は遠目で判別する力を持っていたわけで、警戒する事に越した事はない。まぁ……悟と違うから力とは言い過ぎかもしれないけど……
「まぁ……車まで十分程の距離なので、好きにすればいいですが」
私が自転車が通う距離だから、車にしたら十分そこらで着くのは知ってるけど。念には念をいれたいじゃない。
「見られたくない相手がいるんです。下手したら、小鳥遊先生にも被害が及ぶかもしれない」
「私ですか? その相手は私を知ってるという事なら……昨日、食堂で会った女子生徒の一人とか……」
察するのが早い!? いやいや……あの時、スルメを食べるのを嫌がった原因を考えたら、あの中にいると思うかも。
「その一人を通り過ぎますよ」
「えっ……蛍!!」
寝転がってる状態で、車の窓から外を見ると、蛍を通り過ぎていく。流石に目を合わせてないから大丈夫だけど……
学校が始まるまで一時間以上ある。蛍は部活に入ってないから、朝練とかないし。風紀委員が今日から始まるわけでもない。
「まさか……朝から探してたりは……」
ありそう!! サラリーマンなら出勤時間は学生より早いかもしれないと、朝を狙っているのかも。なんて、私にとってはタイミングが悪く、蛍しては良いというべきか。
「それでも、このまま通り過ぎたわけだし大丈夫。逆に学校内は安全だと分かったから安心だわ……って、何で止まるのよ!! まさか、蛍に挨拶するためにとかじゃ」
「いえ、信号待ちなだけです。オッサン状態を彼女に見られたくないわけですね」
小鳥遊先生は冷静に言うけど、蛍がこっちに向かって歩いてきてるでしょ。バックミラーから見えてるんだから。