店長のファンサービス
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「いらっしゃいま……何でこんな場所に来てるのよ」
小鳥遊先生の手伝いは何事もなく、荷物を運ぶだけで終わった。まぁ……白先生だけじゃなく、男子の花畑君もいたから詳しく話をしなかっただけかもしれないけど、私的にはその方が助かった。
それが終わった後は居酒屋のバイト。若杉は今日のシフトに入ってないから平和に終わると思ってたんだけど……
「オッサンの観察するためにね」
「皮肉のつもり?」
それは私に会うためなのか、本当にオッサン……人間観察に来たのか分からない返事だから。
「いやいや……半分は本当。半分は陣子に話があるからさ」
紗季はカウンター席に座る。店長は紗季が漫画家という事を知っていて、先生と呼ぶ程の愛読者。客が少ない時だったら、会話しても怒られないし
「ゆっくりしても大丈夫だから」
毎回、ワンドリンクが無料。店長直々に、紗季の前にコーラとお通しが置かれるという待遇の良さといったら……
「どうせ、小鳥遊先生の手伝いの事でしょ。悟は一緒に来なかったわけ? 悟の漫画のキャラを作ってたんじゃないの?」
「ある程度は出来たぞ。後は担当が進めていいかで話を決める感じだな。悟を誘わなかったのは場所が居酒屋というのもある」
そこで働いている私はともかくとして、普通に紗季も来てるわけなんだけど、未成年だけではなかなかね。悟が躊躇したかもしれないし……
「それもそうか。言っておくけど、小鳥遊先生の手伝いは本当に荷物運びや、保健室の整理ぐらいだったからね。白先生が花畑君を連れて来たから、能力の話はしなかっただけかもしれない」
「薫が? 白先生でも素直にきく奴じゃないと思うんだけど……そこは何か面白そうな感じかも」
それは弱味を握ってる紗季だからそんな風に思うわけで、花畑君は真面目に手伝ってたけど? たまに白先生の方を見てたのは……内緒にしておこう。勿論、ロリ疑惑の事もね。
「美化委員が理由みたいだけど。学祭実行の推薦を蹴って、美化委員に立候補したから」
「それは全然面白くないから却下。白先生の新キャラをヒロイン関連にするのはありだな」
漫画なら脚色してもいいけど、『事実は小説よりも奇なり』ではないんだから。
「話はそれで終わり……いらっしゃいませ。二人ですか?」
紗季の相手をしてたら、夫婦らしき二人が来店。端の四名席に案内して、お茶とお通しを準備。
「蛍の事なんだが、オッサンと会わせないか?」
紗季がその夫婦を見て、ポツリと言った事に、思わず運ぶ途中で転けそうになった。
「……あの夫婦を見て、何故そんな風に思うのよ」
夫婦のオーダーを聞いて、再び紗季がいるカウンターの位置に私は立った。
「あれは関係なし。放課後、蛍に誘われただろ? あれに陣子が何度も付き合わされたら、漫画を手伝ってもらう回数が減る事に気付いてしまったわけ」
関係ないのかよ!! って、アシスタントの回数が減るって……面白半分で会わせようと思っただけよりマシと思うべきか? いつかは……と思ったけど、早い方が気が楽になるのかな?
「正体をバラすわけじゃ……ないわよね。何か良い方法を見つけたから、言ってきたんだよね」
蛍に告白された場合、断る事が出来るのか……多分、あの圧力に屈してしまいそう。そして、いつかはバレる流れに……なんかになりたくないから。