嫌なお誘いが来てます
「紗季は良くても、私や陣子はモデルだと知られたくないから。あまり広めないでくれる?」
蛍の言いたい事は分かる。紗季は自分の漫画だと、私達のキャラを好き勝手に動かすから、嘘でも、読者がそう思って、私達をそう見たら最悪だし。
「……人気が出て、アニメ化になったら、そんな事は言ってられないけど」
「……はいはい。そこまで辿り着けたら、文句は言わないから。それまでは極力黙っている事」
紗季のいうアニメ化は当分……というか、可能性はゼロではないけど、長い間黙っている紗季でもないんだけどね。
「井上さんも陣子達の友達なら、気軽に声を掛けてくれていいから。紗季達が問題を起こしたら話を聞いてあげるし」
蛍のこういう気遣いが、美人とかモデルとか関係なく、人気の出る秘訣かもしれない。けど……
「その代わり……さっきの陣子達の会話は聞かなかった事にしてね」
「えっと……紗季の漫画のキャラの事かな?」
「違うわね。そんな感じで知らないふりをしてくれたらいいから。変な噂が立ったら、貴女を疑うかもしれないけど」
蛍は悟に笑顔で凄い圧を掛けてる。こういう腹黒いというか、怖い部分も蛍にはあるから。隠したい事は探している人がいて、それがオッサンだという事。私がオッサンと言葉にしたのが悪かったんだけど……
「何の事か分からないけど……りょ、了解しました」
悟は恐怖で紗季の背に隠れながらも、返事をした。
「蛍もそんな脅すような言い方止めとけよ。悟の能力が必要になる時があるかもしれないんだからな」
「ちょっと!!」
私は思わず声を出してしまった。悟自身、能力があると公言した事で友達が離れていったわけで……
「大丈夫。クラスのみんなに大々的に言ったから、広まっていてもおかしくないし。紗季が言うように透視能力があります……怖いですか?」
悟は恐る恐る蛍に尋ねる。
「全然。検査があるぐらいだから、そんな人達がいてもおかしくないわけだし。出来れば、千里眼みたいな遠くの物を見つけるみたいな能力だったら助かったんだけど」
「そ、そうなんだね!! けど、透視能力が必要になったら言ってください。そんな事言ってもらえたら……助けないわけにもいかないんで」
もしかして、悟は認めてくれる人に弱い? 蛍だけじゃなく、紗季のためにも透視能力を使いそうだし……
じゃなくて!! 私はそれを危惧して、『ちょっと!!』と紗季を止めたわけで、悟のためじゃなく、自分のため。万が一、オッサンの姿で蛍と遭遇した場合、何処かに身を隠そうにも悟の透視能力で場所がバレるし、戻るところを見られたら最悪だ。
「それは……助かるけど……難しいわね」
蛍は悟に圧を掛けた申し訳なさもあるし、オッサン捜しに協力してもらうかを悩んでいると思う。流石に今日出会ったばかりで、そこまで信用出来るかどうか……
「とはいえ、今日は無理だから。新キャラの構想のため、悟を家に招く事にしたからな。悟もいいか?」
「全然構わないよ。紗季の家に行ったら、漫画も読めそうだし」
悟もそれに了承したみたいだけど、その中に私は含まれていたりしないのかな?
「その中に私は……」
「なら、紗季が井上をモデルにキャラを作るなら、陣子は空いてるのよね。陣子の好きなスルメとかも買ってあげるし、その場で食べても怒らないから、探索に行くわよ」
蛍が話し掛けてきた時点で、誘ってくるかもと思ってたけど、蛍は好意でスルメを買ってくれるのはいいけど、その場で私が食べる事になったら……それは避けない駄目だ。