縦揺れも駄目だから
「くっ!! なら、垂直飛びの縦揺れを……」
「それも駄目に決まってるって!! 縦揺れとか言ったら、何なのかバレるから!!」
井上さんの目の前で変態的な言葉は止めないと。胸揺れの方がましだったわ。
「フフフ……叶さん達って、面白いんだね。全然飽きる事がなさそう。耳を塞いでくれたけど、聞こえてきたから。『慣れてる』って意味も分かったかも」
井上さんはドン引きせずに笑ってるけど……内容の意味を本当に分かってる?
「昨日も叶さんの鞄を透視した時、みんなのスッポンポンな姿も見えたわけで……興味がないわけじゃないから。能力を手にした時も」
カミングアウト!? 井上さんはアレを見た事がある。それを見るために能力を使った事もあると……私は見たくはないし、【変身】した時には違和感しかないし……
「分かってくれるのか? なら……」
「残念だけど、今は目薬を持ってきてないから。そのために使うとは思ってもなくて」
それはそうでしょ。井上さんもそこまでの変態ではなくて、安心した。透視能力を使うと目の負担があって、見えなくなる時があるらしいのに、こんな場所で使えないでしょ。
「その代わり、クラスの男子で一番大きいのが誰なのか」
「教えてなくていいわ!!」
思わず、井上さんの頭にツッコミを入れてしまった。私はそんな情報なんか聞きたくないし、多分だけど……想像してしまうじゃない!!
「初ツッコミ!! 有野さんみたいにやってくれて良かった。私の事は名前で呼んでよ。その代わり、叶さんの事も陣子って呼んでもいい?」
井上……悟は怒るかと思ったけど、その反対で喜ぶなんて。私の負担が減ったわけじゃなく、悟のせいでツッコミの数が増えるかも。
「はぁ……別に構わないけど。紗季も井……悟の事を名前で呼んでるわけだし」
「ありがとう!! 漫画の協力は勿論するし、陣子が何か困った時も助けるから」
悟は嬉しそうだから、よしとしよう。意外にも紗季とは相性が良いかもしれない。紗季は悟に近付き、『大きい話は教室に戻ってからだ』とボソボソ言ってる。席が前後だから、私に聞こえないなら良いけど……
「はいはい……私達もさっさと体育測定終わらせないと。身体測定に行ってる子達もいるみたいだし」
私達が話している間に、みんなは体育測定を終わらせてる。紗季としてはあまり見られなくないから……って、それを狙ったわけじゃない……と思う。
「叶!! 俺の華麗な反復横飛びを見てくれ!!」
などと、女子が少なくなったところで、馬鹿な男子が叫んでいるが、それは無視しておこう。
「なんか……若杉君が陣子の名前を叫んでいるけど……もしかして……馬鹿なの?」
悟は『陣子の事が好きなんじゃ……』ではなく、馬鹿という言葉が出た時点で、その行動に引いている証拠でしょ。
私と紗季はその言葉に頷いた。