横揺れを見ては駄目です
「さとり~」
「紗季!? 井上さんと知り合いだったの」
「いや、ほぼほぼ初対面だが?」
紗季はそういう所がある。花畑君も名前で呼ぶし、見ず知らずの相手に接触するぐらいだし……
「えっ!! 私の名前……栄養ドリンクの人?」
井上さんも自身の名前を呼ばれた事に驚いて、キョロキョロしてた。紗季は井上さんに手を振ってたけど、彼女の目に映ったのは私。まぁ……紗季は昨日休んでいたわけだから。
「……叶。叶陣子。栄養ドリンクと呼ぶのは止めて。私が呼んだわけじゃなくて」
「私だ。有野紗季、漫画家の端くれだ。悟は一人なのか? 一人でいるのは運動が苦手からか?」
紗季はグイグイと前に出ていってるし……仲間というのは、運動音痴な方? けど、『一人でいるのは』とか、ぼっちからしたら言われたくない言葉かも……
「運動は苦手じゃないけど……透視能力を伝えたら、逆に離れて行ったの。心まで見透かれそうだとか? 周りに人が集まると思ったんだけど……」
井上さんは苦笑いを浮かべている。好き好んで能力者になったわけじゃない。どんな能力になるかも選べないし。それを利用しても悪くないけど、彼女は失敗したわけだ。
「私は釣れたぞ? 能力の話を聞いて、気になった。漫画に協力してくれたら嬉しい。取り敢えず、一緒に測定を回らないか?」
紗季は気持ちをストレートに言う。こういうのに好感が持てるのよね。堂々と漫画に協力してと先に言ってるわけだから。
「……いいの?」
井上さんは私に聞いてくる。紗季が誘っても、私が嫌と思ってるかもしれないから?
「構わないけど……逆に迷惑かけるかもしれないから。そこは気をつけなよ」
同じ能力者として気持ちは分からないわけでもないし、私の負担が少し減る気がしないでもないわけで……
「迷惑なわけ!! 私は嬉しいんだから。こっちこそ、私と一緒にいる事で変な目で見られたら……」
そうなった場合は高確率で紗季が原因だと思うけど……井上さんも素直に受け止めるから、怪しい勧誘には気をつけた方がいいかも。
白先生も私達が井上さんと一緒になるところを、ウンウンと頷きながら見てたぐらいだし。
「そこは大丈夫。ある意味、慣れてる面もあるから」
「慣れてる?」
井上さんの頭の上に?が浮かんでいるのが、目に浮かぶ。紗季の悪評をそこまで知らないかもしれない。いや、教室で白先生が紗季に『胸の揺れが』発言に怪しいと思わなかった?
「まずは反復横飛びだな」
紗季の苦手な反復横飛びを選ぶなんて、最初から胸の揺れを堪能するかと思いきや、指差したのは男子の方。
当然、男子も体育測定はやっていて、体育館をネットで半々に分けている。
「そっちは男子側で、私達はこっち側だけど?」
井上さんが疑問に思うのも当然。私としては嫌な予感しかない。あんな事を言ってたような……
「男子の反復横飛びを透視して、下のアレがどう動くかを」
「アウトアウト、アウト!!」
井上さんの耳を塞ぎ、紗季を軽く蹴り飛ばした。ヌードデッサンよりも酷い事をやらせようとするのは駄目でしょ。下手すれば、トラウマになるわ。