笑うに笑えない
「うっ……確かにあの人はジャージを着てなかったけど、陣子が何故それを知ってるの? 私が見間違える事なんて……」
ヤバい!! 墓穴を掘ったかも……その質問をどうにか回避しないと。
「何となくよ。蛍がジャージ姿を強調する事がなかったから、別の服を着てたんだって。蛍を助けた人は、その場から逃げ出すような人なわけ? 蛍は美人だから、助けた人も覚えてると思うけど?」
「そ、そう言われると否定出来ないわ。感謝の気持ちを伝えたいのに、あの人が私を避けるなんて……あるわけないと思うし……本当に別人だった?」
何だろう……聞いてるだけで、蛍の愛というか、気持ちが重く思えるんだけど……
「そうそう……似たような人は二、三人はいると言うでしょ。まぁ……私達は蛍と違って、顔をよく知らないわけだし」
「紗季と一緒にいた人は本当に似てたから……紗季はそんな人を見つけたら、スマホで写真を撮って、私に送ってくれない? 貴女なら、それが出来るわよね? 友達……親友の頼みよ」
紗季はさっきの女性にも声を掛けてたし、私とバレないような言い訳が漫画の協力だったから、無理とは言いにくいかも……
「漫画の協力も惜しまないようにするから」
蛍が漫画に協力する事で、モデルになる生徒達の説得が楽になるかもしれない。
「実際に会ったら、聞いてみてあげるけど……相手に無理はさせないから」
流石に、この場で私が止めるのもおかしな話になるわけで、紗季も渋々了承した感じ。
けど、蛍の話を聞く限り、オッサン……私への執着心が強く、そういう気持ちなんだと、紗季も気付いてもおかしくないような……
「それは勿論。その時は私の事を伝えてからでお願いね。取り敢えず、私の用事は済んだから先に行くわ」
蛍は太っ腹に五千円を置いて、去って行った。これから、私……オッサンを捜すつもりかもしれないけど……
「ねぇ……私がオッサンだと言わなかったに対しては、助かったんだけど……蛍の態度で……分かるよね」
紗季ならネタにするというか……笑ってもおかしくはないと思ったんだけど?
「まぁ……ね。ガチ過ぎて、若干引いたというか……笑うにも笑えなかったわ。陣子がオッサンに【変身】して、その写真を蛍に送っても、その追及が半端なさそう……ってわけで、しないから安心して」
紗季の予想は間違ってないかも。これで紗季も私をオッサンにしようとはしなくなるかも。