スルメは止められない
「こんなんじゃない!! 何でよりにもよって」
【変身】能力が欲しいと思ったけど、オッサンになりたいなんて思ってない。この年齢だけど、魔法少女とか、悪の女幹部みたいなセクシー系なやつよ。
「どうしたの!? 男の叫び声が聞こえてきたんだけど」
お母さんが部屋のドアを叩いてくる。急に入ってこないのは、部屋に入る時は必ずドアをノックするところからって言ってるから。
「スルメが喉に詰まって、勢いでTVのボリュームを大きくしてしまったの。もう大丈夫だから」
どうにか元の声に戻したいけど、男とも女とも言えないガビガビの声だ。
「そう? 好みに文句は言えないけど、年相応の物を食べなさいよ。お父さんじゃないんだから」
お母さんは私の言葉を信じたようで、簡単に引き下がってくれた。お母さん的にはスルメは、オッサンが食べる物と認識してるみたいだけど……
「こんなので変身するなんて、TVで特集見てなかったら発狂もんよ。原因は……イカ君のせい? 元に戻らない事はないよね?」
オッサンの味覚になってたから、やわらかスルメが更に美味しく感じて、ビールが飲みたいと思ったのかも。取り敢えず、落ち着いて……残りのやわらかスルメを美味しいうちに全部食べよう。
「御馳走様でした。さてと、これからどうするかよね」
流石に両親が見たら、不審者として警察に突き出されそうだし、友達に相談しても笑われるだけでしょ。
鏡でよく見ると、私とオッサンではスタイルも変わってくる。身長は同じだけど、体重は……中年肥りというか……そこらにいるオッサン達と何も変わらない。
体力も……腹筋や腕立て伏せをするなんかにしても、十回ぐらいが限界。私よりも少しましぐらいなだけで、スーパーおっさんではなさそう……
「はぁ……はぁ……最初にするべきじゃなかったかも……って、声が元通りに戻ってる。という事は!!」
声だけじゃなく、私本来の姿に戻ってる。ダサいダボシャツ、パンツから【人生】と書かれたTシャツ、青のショートパンツにも戻ってて、地味に高かったから助かる。
「良かった~……戻るとは思ってたけど」
時計を見ると十分ぐらい過ぎた? カップ麺が出来るよりかは遅いぐらいの時間が必要って感じなのかも。それとも汗をかいたから?
「これからはスルメを食べなければ、オッサンに変身する事も……」
原因はスルメだとして、他の食べ物でオッサン以外に【変身】出来るとしたら、どうなんだろう? それと一緒で、別の食べ物でもオッサンになってしまうとしたら?
「そもそも、スルメを禁止にする事が無理だわ」
色々と考えるけど、スルメを食べずに生きていくのは私には到底無理だし、オッサンの時に出る、あの美味しさを考えると……