オッサン達の群れ
「はぁ……仕方ないか」
一旦、【疾風怒濤】を止めた。こうなっては仕方がない。
「止めるの!? ちょっと怖いから、逃げるのも手だと思うんだけど」
「逃げたとしても、明日余計に怒られるだけだから。紗季も荷台から降りて。私の事は紗季が上手く説明すればいいの。漫画のストーリーを考えるより楽でしょ」
「す、凄い無茶振りをしてくるわね。まぁ……蛍も知らないオッサンが近くにいるのに、滅茶苦茶怒ってくる事は」
紗季は【疾風怒濤】の荷台から降りてくれた。重りがなくなった事で、スピードを上げられる。
「ま、マジで……この展開はベタ過ぎでしょ!!」
紗季が何か叫んでるけど、聞こえない。私はオッサンの状態で蛍に捕まるわけにはいかない。紗季を捨て駒にして、あの場から逃げ出す事を選んだわけよ。
後ろを振り返ると、紗季が蛍を足止めしてる。という事は、蛍は紗季を無視して、私を追いかけようとした? その恋心はちょっと怖いんだけど!?
紗季を置いてきたけど、上手くやってくれると信じてる。蛍の行動を見れば、色々と察してくれる……してくれ。蛍にしても、紗季には知られたくないはずだから、有耶無耶になればいいんだけど。蛍が紗季まで利用する事は……ないと思っておこうかな。
「さて……動き回るよりかは中央公園に待っていた方がいいかな」
紗季と蛍が別れてから、蛍と鉢合わせになるのは駄目だし、中央公園に一人で来るとは思えない。それに紗季が中央公園に行くのは他のオッサン達がいるせいなら、木を隠すなら森の中。オッサンを隠すから、オッサンの群れの中でしょ。
「決定!! 紗季が一緒に蛍を連れて来る事は流石にないよね」
一足先に中央公園へ。駅付近の中心部にあるというのもあって、結構広い。芝生のところもあれば、噴水もあったりする。勿論、遊具も充実していて、子供達が遊んでいる。
「あっ……本当にいる。しかも、目が合ったし」
中央公園、噴水付近のベンチには子供やカップルよりも、オッサン達がベンチに一体ずつ座っていた。
弁当を食べてるオッサン、子供達が遊ぶ姿を見ている怪しいオッサン、リストラされたのか、頭を抱えているオッサンと様々。そのオッサン達が私の存在に気付くなり、仲間意識なのか、悲しい笑顔で頭を下げてくる。
「別に仲間じゃないんだけど……そう思われても仕方ない姿なのよね」
座る場所はほぼオッサン達に占領されてるせいか、一緒のベンチに座るのは流石にちょっと……
「芝生の上で寝ている人もいるのか……」
それは案外気持ち良さそうだけど、起きれなかった時が悲惨だし。
「変身が解けるまで時間は少しあるけど、隠れる場所は……」
目に入ったのは公園にある公衆トイレ。そこは絶対に蛍が踏み込めない場所でもあるわけで……
「羞恥心を捨てる……男子と女子、そこまで変わるわけじゃない。本当にするわけでもないし、紗季に写真を撮ってきて欲しいと言われかねないわけで」
オッサン達とベンチで座るより、男子トイレの個室である程度まで隠れるのはあり。そこまで公園の公衆トイレを使う人は少ないはず。