番外編 花畑薫は勘違いする
「邪魔するぜ」
真向かいの席に座ってきたのは三年の猪狩響鬼。この学校で俺以上に怖れられてる存在だ。だが、有野達と知り合いという事は、そこまで悪い奴じゃないと思っている。
「……何の用だ。前回は有野達に嵌められただけだぞ」
三年の連中には俺が猪狩に喧嘩を売りに来たと思われた可能性があるからな。猪狩本人もそれは分かってるはずなんだが……
「……ん? お前なのかよ!! どういう事なのか、全然分からないぞ」
猪狩は俺の顔を見て、驚いてるようだが、知らずに声を掛けてきたのか?
「それはこっちの台詞なんだが……用がないのなら」
俺と猪狩が一緒にいる事で注目されないわけがない。周囲が俺達の方をチラチラと見てくるのが煩わしい。
「いやいや!! 用はあるぞ。周囲の奴等は私達をチラ見するなよ。後から、どうなっても知らないからな」
猪狩は周囲に圧を掛けた事で、生徒達全員が距離を離した。これだけで、猪狩がどれほど怖がられてるかが分かる。
「……人払いする程、重要な話なのか? 別の奴と間違ってると思うんだが」
有野から頼まれた……なんて事はまずない。アイツは俺に直接言ってくるはずだからな。それとも、喧嘩関連の事か? 猪狩の手下を知らずに倒していたとか……
「重要……な話だよな? 簡単に言えば、お前は能力者の事をどう思ってるんだ?」
「……はっ? 能力者をどう思うか……」
予想外の質問が来たんだが!! これはどういう意味なんだ。いきなりの事で意図が分からないぞ。
「好き嫌いもあるし、偏見を持ってるとかさ」
偏見は……ないな。俺自身が能力者なわけだし……もしかして、俺が能力者だと疑ってるのか? 【変身】するところを誰にも見られた事はないはずなんだが……
「能力も色々あると思うんだよ。【透視】とか人の心の声を聴くとか」
【透視】は井上の能力だな。猪狩は井上とも知り合いなのかもしれない。【人の心の声を聴く】という能力も誰かが持っていてもおかしくはないか。
「他にも女子がオッサンに【変身】する能力とかもな。そんな能力があったとして……」
それは言い替えただけで、遠回しに俺がオバサンに【変身】する事を知ってる!? もしくは、探ってる感じなのか。驚き過ぎて、続きの言葉が聞き取れなかった。これ以上会話するのは危険か? 墓穴を掘れば、有野達の耳にも入ってしまうぞ。
「響鬼……余計な事はしなくていいよ。逆に足を引っ張る事になりかねないから」
俺と猪狩の会話に割り込んでこれる程、度胸がある人物。話し掛けてきたのは姿見先輩だった。猪狩と姿見先輩の二人が横に並んだ事で、何処からか悲鳴が上がったのは一体……じゃなくて、二人は知り合いだったのか。