番外編 花畑薫に膝枕
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「うっ……うおっ!! ど、どういう状態なんだ?」
透明の叫喚地獄を後輩の代わりに飲んだ事は覚えてる。そこからの記憶がないのは、意識を失ってたからなんだろうな。そのせいで横になってるのは分かるんだが、開口一番にそんな言葉が出たのも、目の前に後輩の姿があったから。それに頭のこの感触は……
「膝枕してくれたのか?」
「えっ!? あ、あの……ごめんなさい!!」
後輩は俺が目覚めた事に気付いたのもあるけど、膝枕をしていたのが恥ずかしかったのか、赤面した状態になり、厨房の奥へと逃げてしまった。急に膝を抜いたから、頭にダメージがあるのは仕方ない。
「……何なんだ一体」
「君が雪見の代わりにアレを飲んでくれたから、その御礼よ。私達が強制したわけじゃないから」
「姿見先輩……って、その格好は!!」
背後から声を掛けてきたのは姿見先輩。俺と後輩の様子を観察してたのか? いや、そんな事よりもだ!! 姿見先輩が地獄卒から閻魔様の姿になってるぞ。
「これ? 君と雪見の勝負が終わってから、この姿でステージに立たされただけ。すぐに着替えても良かったけど、君は【妖怪の森】が好きみたいだから」
閻魔様は子供バージョンと大人バージョンがあるんだけど、姿見先輩は大人バージョン。しかも、服装は勿論の事、雰囲気も似ているじゃないか!!
「……【妖怪の森】好きなのかバレたのは仕方ないか。後輩も膝枕が御礼とか……こっちをジッと見てるのも気になるんだが、後輩は何でここでバイトしてるんだ? 」
後輩は厨房側からチラチラと俺の方を見てくる。膝枕が出来るなら、話し掛ける事ぐらい簡単じゃないのか?
「雪見の行動に関して、私から言うのもね。バイトしてるのは雪見の将来の夢のためにも、人前に出る事に慣れさせるのと、度胸をつけるためね」
将来の夢のため……有野みたいな漫画家を目指してるわけじゃないのか? 人前に出るとか漫画家とは真逆のイメージだからな。笑わせたいという気持ちがあったようだが、流石にお笑い芸人なんて事は……そこは聞けないか。
「なるほどね。あれが練習になったのなら良かったけど」
接客の練習は無理だったが、舞台慣れには丁度良かったかもしれない。
「十分よ。それに……これが本当の報酬ね。さすがにブラインド状態だけど、ここから五つ選んでいいから。あれは君の勝ちだったからね」
「おおっ!!」
姿見先輩はアクリルスタンドが入ったブラインド商品の箱を渡してきた。明日もあるんだから、袋は沢山ある。この中からキャラ被りしないように取らないと。こういう時、井上の能力があれば、どれだけ良かったか……
「……これが正解だ!!」
一つ一つ吟味するよりも、並んでいるの五枚を一掴み。これなら、一つ被るくらいで済むはず。
俺は家まで待ちきれず、この場で袋を破った。
「……何故!? こっちの方が奇跡過ぎるだろ」
シークレットが出た……なら、良かったんだが、結果は弱鬼が五枚。全部弱鬼!! 後輩の弱鬼を庇ったせいで、呪いでも掛けられたのか!?