番外編 花畑薫は練習台
「お、おい!! 俺は何もしてないぞ」
後輩は地獄卒の着ぐるみを盾にして、再度接近してくる。俺を追い出すつもりか? メイド喫茶に来た事が有野の耳に入るとすれば、タダで帰るわけにもいかない。
「遊園地で見た……叶さんの知り合いだったわね。彼女は私の後輩で、今日が始めてのバイトだから許してあげてよ」
地獄卒が小さな声で言ってくるが……遊園地? 有野達と遊園地に行った時に会った事があり、コイツの事を後輩と呼ぶのは……
「……姿見!?」
学校で美人と有名な奴だ。姿見とは一緒に遊んだわけじゃなく、別行動の時に有野達と会ってただけだ。後輩が何か告げ口したかもしれないが……何故、着ぐるみ? メイド服の方が客達は喜ぶ気がするんだが……
「先輩をつけなよ。丁度良いから、雪見の練習台になりなさい。一応、顔見知りのようだし。この場所に来た事は、学校の皆には内緒にしておかないと……イメージが崩れるわよ」
赤い悪魔と似た感じで、噂が噂を呼んで、俺も学校での有名人になっている。イメージなんかどうでもいいが、有野達に伝わるのはヤバいよな。
「はぁ……分かった。勝手にしろよ」
「えっ!! そんな……」
「叶さん達の知り合いだから、まだ安心でしょ? 有野さんにもこの事が伝わるかも」
後輩は俺が了承した事を嫌がってるみたいで、姿見……先輩に訴えかけてる。店内の客達は弱鬼の再現だと勘違いして、暖かい目にで見守ってる感じだな。
「うぅ……それは先輩が劇場スタッフなんて嘘をついたから」
「ステージはあるし、パフォーマンスもあるからね。雪見の度胸を付けるためだから、これぐらいはしないと。そろそろ案内しないと駄目だから」
後輩は騙された形でメイドのバイトをやらされてるのか……有野に使われる身としては、気持ちが少し分かるかもしれない。
「わ、分かりましたよ……ふ、不良先輩もこの事は師匠には内緒にしてください」
「不良先輩……それは俺も同じだ。有野だけじゃなく、学校の奴等には内緒にしておいてくれよ」
メイドと【妖怪の森】、どっちが好きでも変な噂が流れてしまうだろうからな。
「取り敢えず、席までは一緒に案内するから」
姿見…で先輩を先頭に、店の奥の席に移動。店内は姿見先輩が言ってたように、メイド達が歌うスペースや、写真を撮る場所も用意されてる。
「メニューが決まったら、鈴を鳴らせばいいから」
姿見先輩は地獄卒役に戻り、後輩は厨房の方へ隠れてしまった。
「ここは早めに撤退するのがいいな……高っ!!」
席に座り、メニューブックを広げてみると、予想以上の値段。【妖怪の森】コラボメニューは当然として、通常メニュー、やたらと長い名前のも全てが二千円近くする。写真もそうだし、メイドにカラオケのリクエスト代もあったりと色々。それも結構なお値段で……練習台だからって、これも選べるとか言わないよな?
「【妖怪の森】の鬼5メニューは……地獄か」
料理の写真がヤバいわけじゃない。『猪鬼の灼熱地獄』とか『馬鬼の筋肉地獄』とか、メニューの名前に地獄があり、メニュー名にあるキャラのマジパンも添えてあったりする。ちなみに灼熱地獄はカレーで、筋肉地獄はステーキだ。勿論、馬肉じゃないぞ。