賄賂をどうぞ
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「ちょっと!! 何故そんな時に【変身】せずにいられる。いや、いられないだろ!!」
そんな事言ってるのは、結局学校をサボる事になった紗季。紗季の友達という事で、白先生に教科書の束やプリントを押し付けられて、紗季の家に来たわけ。ついでに今日の出来事も伝えておこうってね。
「学校をサボった紗季が言える立場じゃないでしょ。自己紹介で能力を発表するのなんて、馬鹿げてると思うし」
紗季が怒っているのは、井上さん達が能力を発表しているのに、私がオッサンに【変身】しなかった事だ。いや、漫画の修正が終わってからの解放感が、紗季のテンションを上げているのかも。
「けど、栄養ドリンクを忍ばせていたのは、そういう事じゃないのか?」
「うっ……それを言われると否定出来ないけど、別に学校で使うつもりはなかったから」
しかも、栄養ドリンクのせいでネタ扱いされるし。自己紹介の時に飲む雰囲気になったら、どうするか悩んだわ。それも白先生が先に飲んでしまった事で回避出来たけど。勿論、白先生は後からお金は払ってくれたけどさ。
「それにしても透視能力はいいなぁ……男女関係なく見放題だし。けど、その後の数分間は目が見えなくなるのは……」
井上さんは透視能力を使った後、同じ時間だけ目が見えなくなる事も教えてくれた。使用するのに食べ物以外あったのと、代償が必要な能力もあるみたい。オッサンに【変身】する時の代償は? 代償が必要なら【変身】なんてしたくもないでしょ。
「バイト代出すから、ヌードデッサンをお願いしようかな。薫がいるなら、モデルを頼んでみるのもありだし。一緒のクラスになったんだよね?」
「そうだけど……流石に花畑君も嫌がるだろうし、井上さんも……視たくもないでしょ」
「そう? そんな能力を手にしたんなら、使う練習とかで見慣れてるんじゃないの? 薫の場合は問題ないから」
裸を見せるのを許すなんて、紗季は花畑のどんな秘密を知ってるんだろう……可哀想に思えてくる。井上さんにしても、好き好んで裸なんて見たくはないでしょ。
「どんな秘密を知ってるのよ……あんまり可哀想な事は止めてあげなよ。彼にもイメージがあるわけだし」
「イメージ? 私の中では本当に漫画のヒロインポジのまんまだけど。それとも、陣子が【変身】して、井上さんに視てもらうのでも大丈夫だけど?」
「それは駄目!! 私の【変身】は秘密なのもあるけど、オッサンと花畑君の体を見るなら、どっちがいい? 当然、花畑君でしょ!!」
イメージしてみて? 流石にオッサンよりも、花畑君の方が良いでしょ。漫画的にもオッサンの全裸なんて需要がないから。そもそも、そんな想像させないでよ。
「筋肉質よりも、オッサンの体の方が漫画的には描きやすいんだけどね。まぁ……蛍は別のクラスだけど、井上って子と薫が一緒のクラスなら楽しくなりそうだわ。学校の中には別の能力者がいてもおかしくないって事は分かったからね」
若杉に関しては……紗季も同じみたいで眼中になし。能力者は私と井上さん以外にいてもおかしくないけど、冗談半分で言う子もいた。自己紹介で能力者と嘘をついて、失敗した女子もいたし……
「それなら、私の【変身】に興味をなくして貰っても大丈夫だから」
オッサンに【変身】出来るからって、無理難題をやらされても困るから。
「それとこれとでは話は別。これは担当から結構な量を貰ったから、これで何とか」
紗季は賄賂みたいな感じで、缶ジュースをテーブルの上に置いた。しかも、律儀にタブを開けてくれてる。
「こんな安い賄賂で私の心を変えようだなんて……ブッ!! 栄養ドリンクじゃないの」
わざわざ栄養ドリンクを缶ジュースに入れ替えてるなんて普通は思わない……いや、紗季ならやってしまう、やってるから。