番外編 花畑薫はオバサンである
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俺の名前は花畑薫。強面と屈強な体というだけで、恐怖の対象として周囲に扱われている男だ。
まぁ……それも無駄に喧嘩を売ってくる奴が多かっただけの話。大人数に囲まれて、喧嘩になっても危機的状況だと感じた事がない俺が、背中に冷や汗をダラダラと流す程の恐怖に駆られているのは二回目だ。
それは二年二組の教室の中。井上という女子が物を透けて見る能力があると言ったからだ。俺には見られては駄目な物がある。それを知られたのは有野紗季、ただ一人。そのせいで、奴に反抗出来ないでいるし、恐怖を感じた一回目がその時だった。
というのも、俺はこんなナリであるが、甘い物が好きであり、可愛い物を集めるのが好きという女の子みたいな趣味を持っている。特に人形……【妖怪の森】シリーズが好きで、兎の妖怪ウサニンは肌身離さず持ってる。
今もそう。ウサニンは制服の胸ポケットに隠れているし、ライバルのカメ老は鞄の中でお昼寝をしている。
それを井上の能力で見られてしまったら、俺の周囲に対するイメージが崩れていってしまう。
しかも、井上の能力は冗談でもなく、鉄の下着を見事に当ててしまった。最初から俺は疑っていなかったが、井上は他にも誰かを例にしようとしていて……
「斜め前の子は、鞄の中に栄養ドリンクが入れてるとか」
まさかの有野紗季の仲間がロックオン。女子が栄養ドリンクを鞄の中に忍ばせていた事で、オッサンみたいと笑いを呼んでいる。そのお陰で助かったわけだが……
その仲間も空気を読んで、ちゃんと栄養ドリンクを鞄から取り出したのは良かった。そこで井上の紹介は終わったからだ。
自己紹介はつつがなく進んでいき、有野紗季の仲間の自己紹介になった。名前は叶陣子。有野同様、ぶっ飛んだ奴かと思ったが、至って普通に自己紹介を行っている。
栄養ドリンクも、実際は有野が必要とした物かもしれない。叶は奴が漫画家である事は知っている。それは有野自身が言っていたし、手伝わせているとも……そして、俺同様漫画のモデルになってるらしいが……ある意味で、俺と似た存在かもしれない。
そして、俺の自己紹介になる前に、もう一人の能力者が……って、今の時点でクラスに三人は多すぎないか。そもそも、ネットやSNSでも話題になっているが、本当に女子ばかり。女子だけだ。
それなのに、俺が乙女座流星群の光で能力を授かってしまったのはどういう事だ? 名前が乙女みたいだからか? 趣味が女っぽい? だかしかし、その能力はろくな物では……いや、俺にとっては役に立つ能力ではある。
俺の能力はオバサンになる事。チョコの種類によって、オバサンの【変身】時間が変わってくる。こんな馬鹿らしい能力を持った奴は他にいないだろう。男の時点で例外なんだろうが……
勿論、これを有野には絶対秘密だ。奴の仲間である叶にツッコまれた時は心を読む能力でもあるのか!? と思ったぐらいだったが、流石に能力者ではないだろう。




