ネタを考える厳しさを知る
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「どうするのよ。響鬼先輩が笑える漫画を描くなんて。今の状況が厳しいのは紗季も分かってるよね」
「大丈夫大丈夫。響鬼先輩用の漫画を用意するつもりはないから」
響鬼先輩と別れて、私達は教室に戻ってきている。響鬼先輩の【テレパシー】が届く事はないんだけど、予想外の言葉でビックリした。
「えっ!! それは駄目だよ。紗季の味方をしたいけど、描くと言ったんだから」
悟は常に紗季の味方をしてたけど、今回は響鬼先輩だからね。了承したからには約束を果たさないと……
「描かないとは言ってないから。響鬼先輩に見せるのは単行本に載せるおまけ漫画。黒さんだけじゃなく、読者の反応も見れるんだから一石二鳥でしょ」
「……ちょっと待って。ついさっき、単行本のおまけ漫画は私と悟が考える事になってたよね?」
紗季の漫画への負担を減らすために、単行本のおまけ漫画を私と悟が話を作る事になったのは今朝の話なんだけど。
「ネタを考えろとは言われなかったわけだし。陣子達が考えた内容を漫画にするのは私だから」
確かに響鬼先輩が面白いと思う漫画を描けと言われただけで、ネタを考えてこいと言われてない。原作と作画が違う人物というのも漫画ではあるわけで……
「それに加えて、響鬼先輩は【テレパシー】で私の心を読む可能性があったわけ。そこで指摘されたら諦めるしかなかったけど、その賭けに私は勝ったわけよ」
「なんだろう……納得出来るような出来ないような……」
紗季に言いくるめられてる気もするんだけど、響鬼先輩が面白いと思うぐらいじゃないと、黒さんは納得しないかも。どっちみち、やる事は一緒なんだよね。
「やるしかないんだよね。響鬼先輩を意識し過ぎるのも駄目だし。【学遊日誌】のキャラか、私達自身のネタになるから」
悟が言うように、【学遊日誌】のおまけ漫画なんだから、その中のキャラか、作者やアシスタントの話という縛りがある。
「そうしないと黒さんの方が納得しないだろうしな。放課後、適当に下書きなり、プロットなりを考えてみてくれよ。面白かったら、すぐに絵に起こしてみるからさ」
紗季がそう言うもんだから、私と悟は授業そっちのけでノートの端に四コマ漫画の下書きをいくつか描いてみた。
その結果……
「凄いわね。申し訳ないと思うぐらいに全然面白くないわ。オチなし。説明が長い。続く……とか、続かないから」
考えてもらってる側なのに、私や悟はボロクソに紗季からダメ出しをくらう始末。四コマ漫画を描く紗季の凄さを実感した。流石にプロなだけある。