二年二組鉄先生
★
東校舎三階にある二年二組の教室。中はグループがすでに出来ているかのように、ワイワイと騒いでいる。勿論、その中には若杉も誰かといて、一人なのは花畑だけ……紗季がいない時点で、私もその一人に入るかもしれないんだけど……
机の上にテープで名前が貼ってあり、好きな席に座れるわけでもない。男子と女子で別々の列でもなく、共に名前の順。紗季は有野という名字という事もあって、窓際の一番前。私は叶で、紗季の隣の席になった。
若杉は勿論、廊下側の一番後ろの席。離れているのは助かる。花畑は真ん中……中央にいるから余計に目立っているかも。
「皆、席に着け。集会が始まるまで時間があるから、軽く挨拶するぞ」
教室に入ってきたのは上下赤ジャージの女性。一年の時と同じ担任、鉄白先生だ。
「私の名前は鉄白。担当は体育。二十八歳の独身であり、彼氏もとい旦那を募集中だ。親戚に独身男性がいるなら紹介してくれ。勿論、男子生徒が卒業してから告白するのもありだぞ」
この紹介は一年の時にもやったお馴染みのフレーズで、年齢が一歳上がっている。見た目は美人だと思うけど、男よりも男らしいところがある。そこが婚期を逃しているような……まぁ、それでも生徒には慕われてる先生だ。
私も紗季や蛍以外だと、白先生が一番仲が良いかもしれない。そのきっかけはジャージであり、食べ物の好みであったり……ある意味での師匠的存在であるわけ。
「はい!! 俺が立候補します」
「君は私のタイプとは違うから無理だ」
「ガーン!!」
と、少しの笑いが起きる。これが一連の流れね。挙手したのも同じクラスの男子で、そのまま委員長になった奴。今回も委員長に任命されるかもしれない。
「さてと……次は皆の自己紹介。名前と一言だけでいいから。私みたいなネタを投げ込んでも構わないぞ」
そんな風に言われての一番目に自己紹介しないと駄目なのは……紗季なんだけど……
「最初は……有野は来てないのか? 仕方ない奴だな。次の井上さんから行ってみようか」
白先生も紗季が漫画家である事を知っている。一応、学校に報告はしておいた方がいいという理由みたい。つまり、紗季が漫画家と知るとは私と蛍、花畑と白先生の四人。白先生は紗季のモデルには今のところなっていないかな。
「井上悟。さとるじゃなくて、さとり。今話題になっている能力者の一人なので、よろしくね」
井上さんはいきなり爆弾発言を投げ込んだ。アピールとしては抜群かもしれないけど、嘘であれば厨二病だと馬鹿にされるだけ。
「どんな能力というと……スケスケに見える、男が喜びそうな能力です」
井上さんは何か食べるわけじゃなく、目に目薬をかけた。斜め前にいる私は、彼女の目の変化に気付いた。漫画みたいに、黒目が赤目に変わってる。
「目薬のクール度で、透ける力が変わるわけ。例えば、白先生の下着は黒色とか」
「正解だな。いつ何が起きるか分からないからな。常に勝負下着なんだ」
白先生も素直に答えるせいで、花畑以外の男子達は盛大な叫び声を発している。これも白先生と井上の掛け合いなら良かったんだけど……
「斜め前の子は、鞄の中に栄養ドリンクを入れてるとか」
オッサンになるつもりはないけど、鞄の中に栄養ドリンクを忍ばせていた。それは誰も知らない事だったから、井上さんの力は本物を意味する。
紗季が欲しがりそうな能力。紗季だったら、躊躇いもなく、男子の裸を見て、デッサンに使いそうだ。
と言うか、栄養ドリンクを持ち歩いてるだけで、オッサンにみたいだとか小声で聞こえてくるんだけど……紗季じゃないんだから、私をネタにするのは止めて欲しい。