影の努力は評価しないと
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「響鬼先輩達には感謝かも。雪見と一緒に練習するにしても、精神面までは無理だし」
雪見のコント披露は解散して、私は一人で学校内を歩いてる。バイトまでの時間潰し。悟は紗季の手伝いに向かって、響鬼先輩達は早速雪見を連れて何処かに……といっても、バイトの手伝いらしい。二人共、色んなバイトをしてるみたいだから。姿見先輩は遊園地でバイトしてたからね。
「三人は相談事を話したわけだし……次は私か悟の番になるのかな」
他にあったら別だけど、悟の相談事は紗季と私がすでに解決したわけだし、残ってるのは私だけ。相談内容は……勿論蛍の事。蛍が傷つくのは分かってるけど、私とバレずにオッサン愛を諦めさせたいわけで……
「はぁ……蛍も何でそんなに好きになるのよ。何度も助けた私が悪いのは確かだけどさ」
一年生や転校生じゃないんだから、校内探索で時間潰しなんか勿体ない。図書室よりも本屋に行った方が良いし、【兄貴】でフィギュアを見るのも良かったんだけどさ。
「本当に何やってるんだか。体の心配はしなさいっての」
ふと二年生の教室がある方向を目にすると、蛍の姿が見えた。どうやら窓際の席らしく、そこで居眠りをしてるみたい。蛍が学校で居眠りするなんて一度もないし、まして誰もいない教室なんて危なすぎる。
「蛍」
「う……ん……陣子?」
「こんな場所で寝るなら、家に帰ればいいのに。学校だろうと襲われる事があるかもしれないんだから」
蛍にいつものような覇気がない。人がいなくなった事で気丈に振る舞い事をしなくなったのかも。
「ご、ごめん。【愚弟】に行くのに少し時間があったから……いつの間にか寝てしまったみたいね」
蛍は【愚弟】で店長に指導されながら、コスプレを作成してるみたい。今日は予約があるみたいで、それが終わるのを学校で待ってたらしい。
「時間までオジ様を探すのもありなんだけど、こんな疲れた姿を見せるわけにもいかないから」
相当に疲れてるみたいで、下手したら紗季みたいに徹夜で作業してるのかもしれない。
「あまり寝てないんでしょ。そこまで無理する必要なんかないよね」
「全然。疲れてるけど、嫌でやってるわけじゃないから。それに裁縫の練習ばかりだったけど、ようやく何のコスプレするかを決めたから。オジ様も気付いてくれたらいいんだけど」
「……何のアニメ、漫画のキャラにするの? それとも特撮?」
コスプレするとしても、オッサンに見せるためにも、日常でも違和感のない服。お面ライダー繋がりで特撮は……流石にないか。
ただ……年代を考慮して、【愚弟】の店長にアドバイスを貰っていたとしたら、私の知らない作品かもしれないわけで……蛍に嫌われないと駄目だけど、その作品の勉強をして、褒めてやらないと、蛍の努力が報われないじゃない。