先輩の指導は断れない
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「おおっ!! 良かったんじゃないですか? 陣子も上手くツッコミを入れてたと思うし」
悟と響鬼&姿見先輩は私と雪見に拍手を送ってくれた……んだけど、笑い声が一つも無かったんだよね。普通に見てたというか……
「普通だな。あまりに普通だぞ。可もなく、不可もなくだ。叶が頑張ったのは分かるけどな」
「まだスベった方が印象に残ったかもね」
響鬼先輩と姿見先輩の評価は普通。お笑いの中で普通なのが一番嫌かも。スベるのは嫌だけど、相手には覚えて貰えるかもしれないからね。それに私の事は言葉にしてくれるけど、雪見に対する評価はなし。
「さ、寒いから、雪見も落ち込まないで。紗季の弟子になりたいのも、自分で足りないと思ってるからでしょ」
雪見自身が落ち込んだせいで、雪見の体から冷気が漂い始めた。近くにいた私が一番の被害を受けて、あまりの寒さに鼻水が垂れそうになってる。
「雪見の感情次第で寒くなるのか? 前の能力者の集いと違う感じだよな?」
響鬼先輩の方まで冷気が広がっていくけど、その寒さはネタが滑った時とは違うみたい。あれは内側からの寒さで、今回は外側? 私もそんな感じだし。
「ですね。これは雪見次第で、前回は私達がギャグが寒いと思ったからだと思いますよ」
これは雪見が説明するのは難しいと思う。雪見自身は冷気を出しながらも、寒さを感じてないからだ。実際に悟が持ってきたジュースはさっきよりも明らかに冷たくなってる。
「あえて寒いギャグで体を冷たくするのは斬新で注目されると思うけど、雪見は笑わせたいんだよね?」
姿見先輩は寒くなっていく中でも、震えもせずに声に出した。能力を使うだけでも注目を浴びるのは確か。
「そ、そうです。【凍結】は面白いと思ってくれてるのかの判断だけで、そんなので注目されたいわけじゃないです。笑って貰えるのが目的です」
雪見の気持ちが落ち着いたのか、周囲の冷気が薄まってきた。失敗するたびに毎回落ち込んで冷気を出していたら、私の体が冷え性になってしまうかも。
「なら、まずはネタを考えるよりも、度胸、気持ちを鍛えるのが先だな。口調やリアクションの硬さも無くなるぞ。この先、落ち込んでは冷気を出してたら、【凍結】キャラが固定になる。そうならないためにも、私が協力してやるから」
「不良漫画とかである度胸試しとかですか……って、嘘だから!! 聞いてみただけだから」
悟が冗談で響鬼先輩に質問したから、それの怖さに雪見の【凍結】が反応してしまった。
「それもありだけど、今は無理そうだろ。雪見も違う方法だから安心しろよ」
「響鬼だけだと無茶振りしそうだから、私も協力するわ」
三年の響鬼先輩&姿見先輩二人の指導……それは学校の中で羨ましいと思う生徒がいるかも……その視線を利用するとか?
「あ、あの……断る事は……」
「遠慮するな。能力同士の仲なんだからな」
雪見は勇気を出して断るつもりが、響鬼先輩には通用せずに、二人の協力は決定となった。私のお笑い……ツッコミに関しては指導はなし。