学校生活がはじまった
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新学期当日。
勿論、この日の重大イベントはクラス替え。仲が良い相手と一緒になるかどうかで天と地の差が生まれる。体育の時の組み合わせとか……新しく話す人を開拓しないと駄目だとかさ。
「はぁ……最近運が悪いとは思ってたけど」
掲示板に貼られたクラス割り。オッサンに【変身】する能力もそうだけど、そこから不運が続いてる気がしてた。でも、紗季と同じクラス、二年二組になったのは運が良い感じね。
蛍とは別のクラスになったけど、二年になればコース別に分かれて、蛍は五組、特進コースに進むほど頭が良いので仕方がない。
「取り敢えず、紗季に連絡しといてあげるか」
新学期初日早々に紗季は休んでいる……というよりも、寝坊。今も寝ているんじゃないかな。担当から漫画の修正するように言われて、そこから徹夜したはずだから。
「よっ!! 今日も一人か? 暇だったら、話し掛けてやるから。バイトの時は一緒に行こうぜ。それと教室も……また後でな」
一方的に話し掛けながらも、そそくさと去って行ったのは若杉。これは運が悪いと言うべきか、同じクラスになってしまった。
紗季や蛍が側にいない場合、基本一人でいる事が多いのは確か。けど、若杉と話さないと駄目なぐらいに、人付き合いが悪いわけでもないから。
「あいつの事だから、『教室まで一緒に行かないか?』とか言うと思ったけど」
何かに怯えた感じがして、後ろを振り返ってみると、こちらを睨んでいる男子がいた。若杉を見てた……というよりも、私。私というより……この場にいない紗季を捜しているのかも。
花畑薫。女の子らしい名前とは裏腹に、不良みたいな強面な顔と、屈強な肉体を持っている男子。
彼とは一年の時は別クラスだったが、今回は同じクラスになってしまった。それは紗季にとっては幸運かもしれないし、花畑君にしては不幸かもしれない。
花畑君が紗季に告白して、フラれたというわけじゃない。ただ……紗季は何かしら、花畑の弱味を握っていると思う。
彼も紗季の漫画のモデルの一人だから。それも何故か主人公やライバルではなく、ある意味でのヒロインポジ。
花畑君を女キャラに変更したわけじゃなく、そのまんまな感じで書いてるはずなのに、読者はヒロイン扱いしている。それも趣味が女の子っぽい感じにしてる。
彼自身、漫画の存在に気付いて抗議したけど、失敗に終わったみたい。そこから、紗季は何度も花畑君を弄ってるようだから……
「えっと……今日、紗季は来ないかもしれないから」
花畑君が紗季を警戒しているかもしれないので、一応寝坊しているのを教えておく事にした。あんな姿だが、紗季の態度に対して暴力で訴える事はしないし、悪い奴ではない事も想像出来るから。
「おっ……おう。お前も一緒にいるのなら、有野の暴走を止めてくれ。一緒のクラスだと気が気じゃなくなるからさ。知られたく……いや……何でもない」
彼もまた、紗季に違う弱味を握られるのでは? と不安に思ってるかも。不良みたいな感じながらも、学校を休むという選択肢が無さそうな分、紗季よりも真面目じゃないかな?
「私も似たような目に合ってるし、諦めるしかないと思うけど……流石にそこまでネタを持ってる事もないでしょ」
私の場合、オッサンに【変身】する事を知られたから、漫画のネタにされるのは明らかなわけで……私よりもマシになると思う。
「……はぁ」
花畑君は溜め息を吐いて、教室に歩いていく。それはネタがあると言ってるようなもので……紗季には言わないでおいてあげよう。