オッサン時の休息
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「はぁ……今日も一日疲れたわ。紗季も毎度毎度面倒な事をよく考えるわ」
遊園地の出来事が終わって、夕方には帰宅した。紗季は単行本の表紙やおまけ漫画を書くための時間を取り戻すべく、奮闘している頃だろう。流石に今日は手伝う気にはなれないし。悟も門限があるから今回はすぐに帰ったしね。
「さて……久しぶりにやろうかな」
紗季の家に泊まった時以外はやってるんだけど、オッサンに【変身】する食べ物を見つける事。今日の遊園地で食べたイカ焼きは【変身】する事はなかった。イカ自体で【変身】するものでもないらしい。
「今日は漬け物系で、飲み物は熱い緑茶よね」
やっぱり、オッサンに【変身】するのはオツマミ系かなと予想。エイヒレやチータラは大丈夫だったし、普通のチーズ系もOK。酒に合う主食の唐揚げ、焼肉や餃子も無問題。刺身もどんと来いって感じ。
「最初はやっぱり定番の沢庵でしょ。間違いない美味しさ」
黄色の憎いやつ。単体でも美味しいのに、丼物のお供だと抜群の成果を生む。牛丼に紅生姜と同等だと私は思ってるぐらい。これを調べるのは外食するためには必須でしょ。
「うんうん……この食感よ。ほのかな甘味と酸味。何度も食べたくなる」
とはいえ、今は一切だけ。他にも柴漬け、浅漬け、奈良漬け、キムチと少量ずつ用意してる。福神漬けと辣韮は家カレーの時に試してるから。
「味が濃いキムチは最後にして……」
沢庵以外はそこまで好きじゃないんだけど、順々に食べていく。
「……【変身】する感じはないと」
【変身】しない事に一安心しながらも、実はこれからが本番だったりする。【変身】するのは不本意だし、紗季や悟の前では嫌だと言ってるんだけど……ここで【変身】するための栄養ドリンクを一本。ここからが本番だ。
「オッサンになって味覚の変化も試さないと」
スルメも用意してたけど、十分という時間は短いし、オッサンの時の方が美味しいから確保しておいた。
「うん!! 美味い。オッサンの時の方が安らぎを感じるというか……お酒が欲しくなるというか」
お酒じゃなくて、緑茶でもオッサンの時の方がホッと一息つける感じがする。その後にスルメを噛みしめると、味が体に染み込んでくる。
「ふぅ……ここからは先にキムチを食べといてと」
スルメとキムチの二つだけをしばらく楽しんだ後、一階に降りて、あるの物を用意してもらう。
「お母さん。ご飯とお茶漬けの元をちょうだい」
「えっ!! ……出来るなら、【変身】する前に取りに来て。オッサンに『お母さん』と呼ばれたら、複雑な気持ちになるから」
お母さんは私が【変身】出来る事を知ってるわけだけど、急に声を掛けると流石に驚くわね。
「時間もあるし、オッサンの方が美味しくなる食べ物があるんだよ」
「はいはい……お茶漬けを食べるなら、今日はご飯は必要ないわね」
お母さんは私に冷飯と熱い緑茶の追加、お茶漬けの元を渡してくれた。
「これで十分。今回は漬け物を試してたみたけど、お茶漬けに絶対合うと思うんだよな。締めの一品でもあるんだから」
お酒の締めにラーメンやお茶漬けは定番。オッサンに合わないわけがない。それに漬け物が合わさるわけだから……
「美味っ!!」
そんなこんなで、紗季達には隠してるけど、私なりにオッサン時の楽しみ方を満喫しているのだ。




