若杉はへこたれない
「私達は先に行くわ。悟が活躍する場面かもしれないけど、無理するのは駄目だぞ」
紗季と悟は先に行ってしまった。紗季も頼りにしてるのは悟の【透視】みたい。そこは漫画のネタにもなるから、ペアを組んだのかも。
「俺も行くわ。スタンプラリーを集めるだけなら、一人でも問題ないだろ。アンタもそう思わないか? 手伝うのも、せめて二人にして欲しいだろ」
花畑君は二人のデートを邪魔してはいけないと空気を読んだ。それなら、逆に私と若杉の方に参加して欲しい気持ちを察知……
「大丈夫だよ。白先生は【妖怪の森】以上に生徒の方が大切だと思う人だからね。一人でも一緒にいた方が安心すると思うんだ。叶さんも無理しないようにね」
「そうだぞ。お前と有野は無茶しそうな印象があるからな。有野の方は井上がいるが、お前は一人になってしまうだろ。そっちの方が心配だ」
「……そこまで言われたら、一緒に行くしかないな」
黒さんは白先生の気持ちが分かってるみたいで、花畑君の提案を断った。そうなると花畑君も白先生達の言葉に従うしかないわけで……私と若杉がいる場所から去っていく。
「俺達も行こうぜ。観覧車でも良いし、叶と一緒ならおばけ屋敷でも問題ないぞ」
私とは正反対で、若杉は元気に満ち溢れていた。それが余計に面倒臭いので、若杉を置いて歩き始める。
「お、おい……」
「私達の目的を忘れてない? 怪しい物を探すんだから、アトラクションに行く必要はないでしょ。観覧車の中とか、すぐにバレるだろうし、おばけ屋敷には姿見先輩がいるから」
どれだけ観覧車に拘るのよ。おばけ屋敷も一度行ったんたから、私が怖がって抱き付く事なんてないから。それとも抱き付くつもり?
「まぁ……タワーフォールなら良いか。私は一度も乗ってないし」
悟のお陰で若杉のトラウマになってるアトラクション。それを聞けば、静かになるはず……
「うっ……そ、それでも構わないぞ。一度だけなら耐えられるはずだ。恐怖で手を握ったら謝る」
「やっぱりなし。手を繋ぐ気満々でしょ」
「そ、そんな事はないぞ」
断らないと思ったら、それが目的!? 素直に答えるのは良いけど、手を握られるのが分かってるなら、私が断るわ。
「はぁ……買い食いぐらいはしてもいいけど、アンタとは見て回るぐらいだわ」
昼も過ぎて、お腹も空いてるはず。カフェは無理だけど、それぐらいは許してやらないと。羊爺のカフェでカップル専用のがあったから、若杉がそれを選ぶとも限らないし。
「おおっ!! 丁度腹が減ってたんだよな。【妖怪の森】とコラボのやつを買って、一緒に写真を撮ろうぜ」
さっきの撮影会の時も叫んでたけど、どうしても写真が撮りたいのか……
「それぐらいは……」
「どうした? あの親子連れが知り合いか?」
私は思わず足を止めた。知り合いと呼んでもいいのか、紗季の担当になり損ねた酢男の姿が見えた。家族で来てるなら全然問題ないんだけど、あの子供って……