番外編 花畑薫は交渉する
昼休みの予鈴があり、叶達よりも先に有野が戻ってきた。少し悩んだ顔をしているが、一人の時を狙う。有野が先にOKを出せば、叶も渋々参加してくれるかもしれない。もしかしたら、有野と二人で行くという地獄、諸刃の剣になるのだが……
「チケット二枚借りるぞ。叶達が戻る前に交渉してやる」
この時点で心臓が早くなるのが分かるし、手も若干震えている。
(この俺が……緊張している!! 俺から有野を遊びに誘うのは初めてだ。しかも、若杉のデートという言葉が余計にそうさせるのか)
「……ん? 薫から用があるのは珍しいな。残念だが、今日はそこまで構ってやれないんだ」
鉄と一緒に職員室に行った時、何か言われたか? だが、おとなしい状態の有野の方が声を掛けやすい。
「今日は別に構わない。明後日の日曜日、遊園地に行かないか? 若杉からチケットを貰ってだな……出来れば叶と四人で」
「いつの間に若杉とそこまで仲が良くなったんだ? というのは置いといてだ。そのチケットを見せてくれ。安心しろ。奪い取る事なんてしないさ」
後半の言葉は気になるが、誘ってる分素直に言う事を聞いておこう。
有野はジッと遊園地のチケットを見てる。俺が誘う理由を考えているのか? 若杉と叶の名前は出したが、俺の本来の目的に気付いた? いや……それでも問題ない。逆にショーとか限定品を手に入れるのにも協力して貰わないと駄目だからな。
「いいぞ。薫が奴を協力する理由も分かったし、私もそれにあやかろう」
即答!! それが逆に不安になる。俺が【妖怪の森】のファンである事を有野は知っているが、何の躊躇いもなく!?『あやかろう』という言葉の意味は……
「まさか……若杉と叶を付き合わせるのか?」
思わず若杉に聞こえないよう、小声で有野に聞いてしまった。前回の時はそんな事はなかったはずだが、漫画のネタ切れか?
「なわけないだろ。まぁ……若杉が何処まで空回りするかは面白いかもしれないが。むしろ、放置する可能性もある」
それは遊園地の中に入れば別行動を取ると……それも悪くないか? 欲望に忠実な若杉も叶と一緒に別行動を狙ってるだろうしな。
「俺はそれで構わないぞ。ある場所にさえ一緒に来てくれたら十分だ」
「だろうね。そっちが誘うんだから、私達はチケット代を出さなくてもいいんだろ?」
それは若杉に了承済みだ。誘うの成功したのだから、俺のチケット代を払って欲しいぐらいだ。
「勿論だ。日曜日に会った時にチケットを渡すぞ」
「了解。その時に渡してくれたからいいから。集合時間とかは私達で決めさせてもらうから」
集合時間? 長い間は居たくないという事か? 俺もその気持ちは一緒だ。
「分かった。若杉にも言っておく」
これで交渉成立。後は有野が叶を上手く誘えるかどうか。
タイミングが良いのか、叶と井上が教室に戻ってきた。
「陣子。日曜は遊園地に取材に行くぞ」
有野はクラスの奴等がいる中、大声で宣言した。これは拒否出来ないようにするためか? 若杉は『ヨッシャー』というリアクションをしていたのは無視しておこう。