オッサンにラブ
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新学期まで残り二日。
今日は蛍からご飯の誘いがあった。いつもなら、紗季も一緒のはずなんだけど、今回は私だけ。紗季も漫画の担当と会う約束があったから、どうせ無理だったわけなんだけど……
「お、おまたせ。何か神妙な感じだったけど、何かあったわけ?」
電話からして、蛍の雰囲気が全然違った。いつもなら、ちゃんとオシャレをしてくるように注意してくるのに、それを言い忘れる始末。だからといって、ジャージ姿で蛍に会う事はしない。蛍に選んでもらったシャツとジーンズをチョイスしとかないと。
「お~い……人を呼んでおいて、どうしたんだよ?」
喫茶店【白の木馬】で待ち合わせしていて、窓際の一番端に蛍は座っていた。けど、私が声を掛けても、窓の外を眺めてるばかり。
「蛍ってば!!」
「えっ!? 来てたんだ。ゴメン……ちょっと考え事をしていて」
重症みたいだわ。その考え事の相談をするために、私を誘ったんだと思った方がいいんだろうか……漫画やドラマであるシチュエーションなら、恋の相談という流れかもしれないけど、蛍はモテるし、何度か付き合っては別れてを繰り返してる。私よりも経験値の差は歴然だから。
取り敢えず、私は蛍が座ってるテーブルの正面に座って、オレンジジュースを頼んだ。
「いつもはアイスコーヒーを頼むのに、珍しいわね」
蛍が言うように、私はカフェに行く時に頼むは大概アイスコーヒー。けど、コーヒーを飲む事でオッサンになるかはまだ試してないので、ここでは敬遠する事にした。
「気分転換にちょっとね。そういう蛍は私に相談事でもあるわけ? 紗季も一緒に誘わないのは珍しいし」
「紗季にはちょっと……」
オレンジジュースが置かれたので、喉を潤しておこう。何事かと急いで来たわけだし。紗季に相談出来ない事って……喧嘩でもした?
「陣子は本気で人を好きになった事はある? 本気で気になる人とか」
「ブー!」
まさかの恋愛相談!? 人気者の蛍が、私に? 思わず、オレンジジュースを吐き出してしまったじゃないの。こんな台詞を言ってる時点で、相当ヤバいのでは?
「ゲホゲホ……確かに、紗季への相談は駄目だわ。漫画のネタにしそうだからでしょ」
蛍が誰かに告白される事はしばしばあるけど、蛍自身から好きになるのは初めて聞く。だからこそ、紗季は漫画のネタにしそうだわ。
「そうなんだけど……そんなにおかしい事かな?」
「おかしくないけど……何故、私なわけ? 男の存在なんて皆無でしょ? 行動がオッサンっぽいと思われるぐらいなのに」
蛍は私と紗季と違って、他にも友達は沢山いる。私に恋愛相談をするのはお門違いなんだけど……
「だからというか……陣子なら、オジ様の気持ちが分かるかも……って」
蛍から変な言葉が出てこなかったか? オジ様って……何? 私を怪しい組織に勧誘するのは止めてよね。
「ちょっと……リアルでパパ活するのは止めておかないと。流石に、オッサンが蛍を誘う気持ちは分かるはずもないから」
「ち、違うわよ!! 何でそういう風に思うのよ。少し前なんだけど、ナンパされてるところを助けてくれた人がいたの!! その人は年上で……格好良かったの」