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028『十八夜月:秘密』


 多賀谷の説得は夜半近くまで行われ、ようやくの決着を見せた。内容的には、午前中は好きなように過ごし、午後からは宴会の準備。そして、日暮れと同時に村人全員を集め酒宴を始め、そこでマヒト様に一人ずつ感謝を伝え、その後、夜になってマヒト様に見送られ逝く事になったそうである。


「結局、毎晩やってる事と余り変わりねーじゃねぇか……」と多賀谷はぼやいていた。

 この事は日付が変わって直ぐに多賀谷とさくらさんによって、記憶を失った村人達に再度伝えられることになっている。


 私は日付が変わる前に心的外傷で夜外を歩けないセイラを背負い、西沢渓谷温泉へと戻った。

 疲れ果てた私は宿まで戻るとすぐにセイラを部屋に置き、一人温泉へと向かった。

 衣類を脱ぎ捨て、露天風呂の方へ行き掛湯をしてから湯船に浸かる。


 淡い電球の灯火に映し出され、降りしきる雨に打たれ漂う湯煙……。肌にまとわりつく気泡。僅かに硫黄臭の漂う滑らかな泉質。

 ――この露天風呂とも今晩で終わりと思うと感慨深いものがあるな……。やはり現実世界へ戻ったら、少し旅でもするか……。


 その時、小さな音を立て露天風呂に通じる扉が開かれた……。十吾さんだった。


「お先にお風呂頂いています」

「よかたい……わいも今晩で入り収めたい」そう言いながら十吾さんは掛湯をしてから湯船に入ってきた。

「ああそう言えば、さくらさんにも会いましたよ」

「どげんやったと」

「まぁその……結構強烈な方でした……」

「ははは、あれでも愛らしか所のある女子たい」

「そ、そうですか……」

 私は心の中でこっそりと十吾さんに勇者の称号を授与した……。



 その時である……ポツリと雫が……「あっ、雨が……」突如、雨が止んだ。


 恐らく、誰かがさくらさんに雨の事を話し、マヒトに伝わったのだろう。日付が変わると同時に雨が降り止んだのだ。

 厚く垂れ込めていた雨雲がにわかに晴れていく……。晴れた雲間から瞬く星が見え始める……。

 そして、南東の空に……月……十八夜の居待月いまちづきが顔を出す。


「お月様……長いこと見とらんかった気がする……」十吾さんが愛おしそうに空を見上げる。

 私も湯船の縁の岩に腰かけて一緒に月を見上げた。

 久しぶりに見上げる十八夜の月は、凛とした輝きを優しく放っていた……。



 お風呂から上がり自室に戻ると、いつの間に風呂に入ったのだろうか浴衣に着替えたセイラがお茶を用意して待っていた。


「ねえ、そろそろ全て話して」浴衣の襟元を正しながらセイラが言い放つ。

 ――確かにセイラに聞きたいこともあるし、そろそろ話しておいた方が良いのかもしれない……。だが……。


「なあ、最初に聞いておきたいのだが、シグナス経由でこの中での会話は外から見ることは出来るのか?」

「え? 何故それを聞くの?……いいえ、今は見る事はできないはずよ……今はメッセージさえ送れない状態だし、多分メンテナンスモードで外にはラインが繋がってないわ」

「だったら私が今ここに居る事は外の連中には判らないのか」

「いいえ、それは多分判ってると思うわ。夢の共有の条件として脳波の同調が起こるから、ここの設備を使えばすぐにパターン解析が出来るわ。八島技研は医療用の臨床試験もやってるし設備も充実してるし恐らくそれで判明してるはずよ」

 ――成る程、もしかするとその所為で外で行われているだろう実験から外されている可能性もあるのか……。そう言う事ならここらで全部話して情報の共有と意思の統一を図った方が良いかもしれない……。だけど……。


「それなら、お前が私に隠していることをまず話してくれ」私は静かにそう言った。

「な、何も隠してなんかないわよ……」目を泳がせ明らかにセイラは動揺をしている。

「嘘を言っても駄目だぞ」

 私には確信があった。通常、この様に救助をされる側と言うのは、もっと激しく動揺していたり怒鳴り散らしたりと感情の起伏が激しくなっているものだ。ましてや彼女は何日もここへ放置された状態だ。だがセイラはそうではなかった……。最初は助手の死に責任を感じている為かもと思っていたが、それを話した後もこいつは態度を変えなかった。だからこいつは何かを隠していて私に対して負い目を感じていると考えた。


「……」上目使いで見上げるセイラ。「わかったわよ! 本当を言えば私の研究はもうとっくに終了してるはずだったのよ!」

「何? どういうことだ」

「中止になったの、私がダイブしたその日の朝に……」

「どうして」

「知らないわよ! 朝になって急に研究方針が変わって、ミナを目覚めさせないと言う事になったの。そして人事があって、私達は研究から外されたのよ。だから、私と米沢は機材が撤去される前に急遽二人でここに来たの! わかった!」顔を真っ赤にさせてセイラはそう怒鳴った。

 ――こいつは恐らく嘘は言っていないだろう……。そこまでの嘘を付けるタイプではない。そして、理由も十分に納得できる。だから強行突破でマヒトに会いに行こうとしたのだ。しかも、朧気ながら外の様子もわかってきた……。

 きっと、研究方針が変わったのではなく、研究対象がマヒトから移ったのだ……あのアマヌシャに。だとすると、もしかして……。


「なあ、もう一つ教えてくれ。お前はマヒトを調べたときにもしかして、旧帝国陸軍の書類に手を付けたのか」

「え?……そう言えば、したわよ。国立図書館に問い合わせて……でも失敗した……何も出てこなかった……」

 ――まずいな……。多分それだ。恐らくそれで目を付けられたのだ。当時からこの国の中に残っていた軍閥組織……。七三一部隊の亡霊どもに……。



 私はその後、セイラにこれまでの経緯を簡単に説明し、そのまま眠りに就き朝を迎えたのだった。


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