紅月-36
その後しばらく、北海道の親戚に身を寄せたの。春になって、三年になったとき、こっちに戻ってきて旭学園に編入してね、名前を変えたの。
―――名前?
緑川由起子だと、有名になり過ぎてね、進学校のお坊ちゃん学校でも知ってる子がいる可能があったから、偽名を使ったの。
―――何て?
北斗由起子。
―――え、それって?
そう、初代ファントム・レディの北斗さんの苗字を使ったの。憧れの人だったし、ファントム・レディの名前を穢したっていう負い目もあったから、自戒のためにそうしたの。
それで、眼鏡なんか掛けて、雰囲気変えて、一年だけお利口さんしてたの。
―――それで、先生になろうって?
うん。あんまりにも悪名が轟きすぎたから、少しでも挽回しようと思ったのね。先代の北斗さんに申し訳ないって思いが強かったわ。ファントム・レディは総番であっても、悪党ではなかったはずなのに、って。先生になって、少しでも、あたしみたいな不良を減らすことができたらって思ったのよ。
―――でも、朝夢見や未来には、ファントムを教えたんだろ?どうして?
どうしてかしら?
朝夢見ちゃんは、先代の娘さんだったからね。先代の資質を受け継いでいるあの子にはどうしても教えておきたかったの。ちょうど、先代が亡くなったところだったから、あの子も淋しかったのよね。少しでも、母親のことを知りたがってたから、つい、絆されて、教えちゃったの。それと…、あたしの編み出したファントムを後継してもらうには、あたしの体が満足に動くうちの方がよかったから。もう、あと何年ファントムを使えるかわからないような歳になってきたからね、あたしも。あの子が、最初で最後のチャンスだと思ったの。
あぁ、言い忘れてたけど、あたしが北斗由起子っていう偽名使うことにしたとき、お姉ちゃんが驚いて訊いてきたのよ。どうして、あんた、そんな名前使うの?って。あたしは、別に、ってだけ答えたら、不思議そうな顔で見るのよ。




