紅月-35
―――で、でも、それは、先生が殺したことになんないんじゃないの?いきなり飛び出したその男が悪いんだろ。
でもね、あの時、車が通らなければ、あたしは間違いなく彼を殺していたわ。
車の来てるのにも気づかないほど彼を追い詰めたのもあたしだった。
どっちにしてもね、あたしが、殺したの……。
―――そ、そんなのおかしいよ。
彼にも父親がいて母親がいた……。ご両親の失意を感じれば、悪いのは、あたしなのよ……。
―――そんな……。
でもね、イチロー君。まだ、この話には後があるの。って、別に大したことじゃないけどね。
そうやって、彼が死んだことで、ファントム・レディの評判が上がったの。皮肉ね。一度は地に落ちたファントム・レディの名前が、あたしの私怨でまた株が上がったのよ。
ファントム・レディに手を出すな、おかしな真似すると殺されるぞ、とか。その日が満月の日だったから、満月の日は暴走族は走るのをやめた、とか。
暴走族連中は私が怖くて満月の日に走るのをやめたんじゃないと思ってるわ。ちょうど月命日にあたるし、そのくらい仲間には義理堅いところがあるのよ。連中は…。
でも、確かに、暴走族まるごとひとつ壊滅させたくらいだから、そのくらいの評判は仕方ないかもしれない。でも…あたしには、どこまでも、ファントム・レディがつきまとってくるんだって、その時ようやく諦めがついたの。あたしは、もう一生、ファントム・レディであり続けなければならないんだって。
―――……それで、先生ずっと、お墓参りしてるの?
うん。やり過ぎたのよね。やっぱり。あたしの私怨で人を死なせたんだから、反省と自戒のために毎年。
―――でも、そいつが悪いんだろ?
あたしがファントム・レディでなければよかったの。んん、あたしが、ファントム・レディであり続ければよかったの。
―――そんなの、変だよ……。




