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グリーンスクール - 紅月  作者: 辻澤 あきら
30/38

紅月-30


          * * *


「また会ったね」

ヘルメットを脱ぎながら、男は由起子に話し掛けてきた。由起子は息を整えながら、応えた。

「ここ、学校に近いから」

「学校で練習しないの?」

「学校の練習のないときは、自主トレしてるの」

「へぇ~。やっぱり、女の子は頑張んないと、ついていけないんだろうな」

由起子はおかしくなって笑った。いま、チームで由起子より上手い選手はいなかった。それを話してしまえばこの男はどんな顔をするだろうかと、想像するとおかしかった。

「どうしたの?」

「んん、別に?」

男は怪訝な顔をして由起子の様子を伺っている。

「ねえ」由起子は笑顔を浮かべて訊いた。「バイク、好きなの?」

「あぁ、これ?俺、これしか能がないから」

「暴走族…じゃないみたいね?」

「あんな連中と一緒にしないでよ。俺は、ただのライダー。あちこちと流してるだけさ」

「そうなの」

「ね、今度乗せてやろうか?」

「うん」

由起子は少し戸惑いながら頷いた。


 彼は山内浩といった。立山高校の三年生だった。受験か就職か悩んでいるところで、考えるのが面倒くさくなった時はバイクで流すということだった。学校がちょうど泉央一号線沿いにあることもあって、ここまで時々来るということだった。

 由起子は山内のバイクに乗せてもらい、彼にしがみついている時が何よりも楽しい時間になっていった。


 とっぷりと日も落ちた頃、ブレーキランプの赤が闇に映え、二人乗りのバイクが止まった。

「今日もありがとう」

寮の前で降ろしてもらい、ヘルメットを脱ぎながら由起子はそう言った。山内はヘルメットを被ったまま応えた。

「んん、こっちこそ。楽しいよ、由起子ちゃんと一緒だと」

表情は見えなかったが、彼の目元は微笑んでいた。

「そんな、こっちこそ。それに、本当に安全運転だから、あたしも安心して乗ってられるし」

「だって、女性を乗せて無茶はできないよ」

由起子は顔が赤くなるのを感じた。

「じゃあ、また」

「今度、土曜日?」

「うん。二時に」

「うん。じゃあ、さよなら」

「さよなら」

 由起子は見送りながらテールランプが見えなくなると淋しい気分に襲われた。それと後ろ暗い気分がいつまでも消えなかった。こんなにも優しくしてくれる彼に、まだ自分が、ファントム・レディであることが言えないでいる。それを言い出すには、あまりに彼は無垢に思えた。由起子は、告白しなければいけない日が来ないことを祈った。


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