紅月-29
* * *
「ねぇ、君ずっとここでトレーニングしてるね」
バイクに跨がったまま、その男は話し掛けてきた。由起子は息を整えながら、頷いた。
「陸上部?」
「んん。野球部」
「へぇ~、野球部?どこ、女子校?」
「んん、そこの泉央学園」
「あそこ?あそこって、こないだ甲子園出たじゃない?あそこの、マネージャー…っていう雰囲気じゃないね。選手?」
由起子はにっこり微笑みながら頷いた。
「へぇ~、女の子が選手なんだぁ。でも、公式戦出れないでしょ?」
「うん。練習試合も、相手の監督の許可がないと出れないの」
「野球、好きなんだ?」
「うん」
「頑張んなよ」
そう言うと男はヘルメットをかぶり、バイクを走らせて去って行った、軽く手を振りながら。
* * *
―――キザ!
ここでこう喋るとそう聞こえるけど、その時は全然そんなことなかったのよ。ただのバイク好きの青年っていう感じだったわ。
―――高校生?
後で話して、ひとつ歳上だってわかったわ。
―――よく話したんだぁ。
そうでもなかったわ。初めはあんまり会わなかった。でも、あたしは、彼を待っていた……。いつの間にか、仁田池へ行くことが日課になっていたわ。そこで白々しくトレーニングして、待ってたの彼を。
ーーーいわゆる、初恋、っていうやつですかぁ?
そうね…。そうだったのね。




