紅月-26
―――相手のせいなんだろ。先生はやめたがってるのに。
そうでもなかったのよね。あたしも、楽しんでたみたい。だって、強いなって思う相手はほとんどいなかったんだもん。いまでも、イチロー君と腕相撲しても絶対負けないわ。そんなに腕力のついたあたしに、見かけだけ見て挑戦してくるのよ。なんだ、どんないかつい女かと思ったら俺よりチビじゃねえか、なんてね。でも、そういう連中を簡単に放り投げることもできたわ。それが、面白かったのかな。
強い人はね、よけいなケンカはしないの。あっちこっちのリーダー格の人と友好協定結んでね、お互い無益な争いはやめましょうっていうことで、平和的だったわ。
―――じゃあ、野球の方に集中できたの?
まぁ、新設校だったから、三年生が一期生でね、おかしな伝統もないし、上下関係も緩やかだし、あたしみたいな女が一緒に練習してても許されてたのよね。それで、バッティングピッチャーなんかやってて、後は球拾いと、練習試合の相手くらい。それでも、みんなの役に立てるっていうことが楽しかったわ。
―――甲子園に行ったんだよね。
うん。二年のときにね。結局、一年のときもお兄ちゃんとは公式戦では戦えなくて、練習試合だけだったから、目標を甲子園に変えたの。一年の夏の大会で結構いいとこまで行ったし、上岡から上手い後輩が泉央に入ってくれるって言ってくれたから、これなら行けるんじゃないかって思って、みんなで、目指せ甲子園!
―――いいなぁ~。俺も行きたいよ。
甲子園行った時に、こんな話があったのよ。
あたしをマネージャーとしてベンチに入れてやろう、ってみんなで相談してくれたの。知ってる?マネージャーでも女はベンチに入れないのよ。それをなんとかしてやろうって、高野連に交渉してくれたのよ。…結局ダメだったけどね。
でも、嬉しかったわ。みんなが、あたしを仲間だと認めてくれているんだ、ってわかったから。スタンドから見てても自分がグラウンドにいるように感じたわ。
―――優勝できなかったの?
それは無理だったわ。一回戦勝っただけ。それだけでも、大したものなんだけどね。それからは、何回か甲子園に出てるでしょ。
―――最近は、常連みたいだよね。俺も、成績が良くなんないんなら、あそこへ行こうかなぁ。




