紅月-23
しばらく迷った挙げ句、野球部のグラウンドに行くと、いつもと同じような声が聞こえた。以前と同じように受け入れてくれるだろうか、そう思いながらネット裏に立つと、それを見つけた一人が声を上げた。
「おい、ユッコ!ユッコが帰ってきたぞ!」
わらわらとグラウンドからみんな集まってくるのを見て、由起子は戸惑ってしまった。
「おい、ユッコ、ケガは大丈夫なのか?」
「随分、長い間入院してたんだな」
「また、野球やるんだろう?」
口々に投げ掛けられる言葉に戸惑い、由起子は微笑むことも忘れていた。
「おい、どうしたんだよ」
目の前で手の平をひらひらとされてようやく我に返った。そして、微笑みながら、
「ただいま!」と叫んだ。
* * *
野球部のみんなは歓迎してくれたわ。もちろん、ファントム・レディだって知っていたのよ。でも、そんなことどうでもいいよ、って言ってくれてね。ファントム・レディがいれば、誰も野球部にちょっかい出して来ないからちょうどいいじゃないか、って言ってくれる人もいたの。
嬉しかったな。
―――いい人たちだね。
みんな、疲れてたんだと思うの。不良とか、ツッパリとか、そんな呼ばれ方されて、そんな風に扱われることに。だから、クサイ言い方だけど、何か熱くなるものが欲しかったのよね。野球もそのひとつ。
ファントム・レディっていう免罪符を手に入れて、堂々とクラブに打ち込めるようになったのよ。
―――先生はどうなったの。
幸か不幸かわからないけど、ファントム・レディのトレーニングがあたしの筋力を増強しててね、あたしはどんどん上手くなっていったわ。
―――へぇ、俺にも教えてほしいな。
あたしの場合は切迫してたからね。ヤクザ映画じゃないけど、命取るか取られるか、っていう雰囲気だったから、必死だったのよね。
―――俺にそんな真剣なのは向いてないな。




