紅月-2
ふうっと大きく息をつくと、振り返って今来た道を眺めた。田園風景の残る新興住宅地は、この狭い平野でも数少ない広々とした風景だった。高架の影に入るとうすら寒く感じられるほど季節が変わっていた。体を冷やすとやばいなと思いながら、体を動かしながら日向に出ようとすると、後ろから声が掛かった。
「あら、イチロー君?」
振り返ると、駅の入り口から出てきた一人の女性が笑顔を向けていた。
「あれぇ、由起子先生」
「どうしたのこんなとこで?」
「そっちこそ。オレはランニング途中だけど」
「あら、こんなとこまでくるの」
「いつもは、もっと行くんだぜ」
「頑張ってるわね」
「先生は?」
「あたし?あたしは……、お墓参り」
「へぇ、今頃?お彼岸はずっと前だよ」
「ふふ…、今日ね、命日なの」
「あ、そうなんだ。で、誰?」
「誰って…」
「昔好きだった人、とか?」
イチローはにやにやして訊ねた。由起子は笑顔を浮かべながら、どこか冷めたような笑顔だったが、静かに答えた。
「そういうんじゃないけどね……」
「あやしいなぁ」
「ふふ。よかったら、ついてくる?すぐそこだから」
「いいの?水入らずでお参りしたいんじゃないの?」
「んん。いいのよ」
どこかいつもの由起子先生と違う。イチローはそう思いながらも、興味があったのでついて行くことにした。