紅月-10
「ま、ガキだけどな、思い知らせてやるよ。ここがどんなとこか」
そう言うといきなり由起子の肩を掴み押し倒してきた。いきなりのことで驚いた由起子は何が起こったのかもわからずそのまま床に倒された。しかし、吉村の手が体操服の下にもぐり込み、服を脱がそうとしていることに気づいたとき、抵抗を始めた。
「おとなしくしろ!」
吉村の罵声が由起子の顔の上で響いた。しかし、由起子は吉村の手首を掴むと、ひねり上げ、首筋に噛みついた。叫んで怯んだ吉村を押し退けて由起子は身を起こした。部屋の奥の壁を背にして吉村を見つめた。吉村の形相は険しく、由起子を睨んでいた。
「おい、出口を塞いどけ」
吉村は青木らに指示をして、近づいてきた。由起子は起き上がって身構えた。
「おとなしくしてりゃ、痛い目に会わなくても済むんだぜ」
そう言いながらゆっくり近づいてきた吉村は、両手を広げて由起子の逃げ場を塞ごうとした。が、由起子にはその姿はあまりに無防備に見えた。間合いが充分に近づいたと判断した瞬間、由起子は踏み込んで蹴りを入れた。突然のことに反応できなかった吉村は、みぞおちにその蹴りを受け、呻きながら崩れた。その後頭部に肘打ちを食らわせるとそのまま吉村は動かなくなった。唖然として見ていた周りの中から谷木が飛び掛かってきた。しかし、由起子は冷静にかわし、回し蹴りを脇に入れて動きを止めると、肘打ち、裏拳とたたき込み、ノックアウトした。
しんとした部室の中で由起子は、倒れて呻いている二人を見下ろしていた。そして顔を上げると、秋葉と目があった。秋葉は怯み、慌てながら、部室を出て行った。ドアが開け放たれて、外の光が入ってきた部室は明るく、今までの重苦しさが消えたようだった。由起子はようやくほっとして、笑顔を見せた。しかし、青木たちは凍りついたように由起子を見ていた。由起子は気詰まりなまま、三人を見つめた。
沈黙の時間が流れて、緊張が解けてくると由起子はようやく体をはたいて埃を払った。そうしながら、上目遣いに三人を見ながら、
「あたし…クビ…ですか?」
と訊ねた。その言葉にようやく青木は反応した。
「い、いや…」
「こんなことしたら、退学…になっちゃうんですよね」
「い、いいんだ。大丈夫さ…。な」
同意を求められた黒田も川村も頷いた。
「吉村さんだって、女の子に叩きのめされたなんて、恥ずかしくて言えないはずだから、俺達が黙ってれば、大丈夫さ」
「でも…入部の許可…もらえませんよね」
「いいんだ、大丈夫さ。も、もう、吉村さんの意見聞かなくても、いいよ。入部してもらって。な」
黒田も川村も頷いた。
「ホントですか?」
「あぁ。正式部員だ」
「やったぁ!」
小躍りして喜ぶ由起子を眺めながら、三人は不思議な気持ちだった。こんな娘が…。




