紅月-1
紅月
某月某日―――晴。
坂を登りきると、泉央高速鉄道の高架が見えた。まだまだずっと向こうにあるそれは、この場所から見えるというだけでその高さが伺える。
イチローはそれを目指してひたすら走った。
広い泉央一号線脇の広い歩道を黙々と駆け続けた。道路沿いの風景は新興住宅地が見える畑地で、ススキの穂が太陽の光を浴びて輝いている。春にはレンゲが咲き乱れるこの畑地も、秋の様相を呈している。
風が気持ちいい。
いつものように自分に課したランニングは、今では楽しみ以外のなにものでもなくなっていた。もちろんグラウンドでボールを扱うことも嫌いではない。ただ、土にまみれて練習するのは嫌いだった。毎日が試合ならどんなに楽しいだろうと思っていた。そういう思いが、自分をランニングに駆り立てている。
信号を待ちながら遙か前方を見ると、ようやく高速鉄道がその姿の全景を見せている。地上十数メートルの高架の深山駅に上がって眺めてみれば、きっと見晴らしがいいだろうと思ったが、上がってみてみようという気にならないほど、それは冷たく無機的で、コンクリートの城壁のように聳えていた。信号が変わって近づくにつれてその威圧感は増してくる。いつもイチローはこの高架をくぐって線路に沿って走っている泉央一号線沿いにそのまま泉中央駅の方へ向かう。そこは、山を切り崩したニュータウンで、緑の豊富な景色はイチローのお気に入りだった。ただ、そこまで行くと帰ってくるのが面倒になる。今日は、ここ深山駅で折り返そうかと思っているうちに、ようやく駅に辿り着いた。