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魂は減数分裂するのか  作者: 春採太郎
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エピローグ

 皐が部屋を出ていってから、予約と注文をするために北京飯店に電話をかけるために、携帯電話を上着のポケットから取り出した。電話帳に登録してある北京飯店の電話番号を探し出し、電話をかけると数コールで電話はつながった。

「もしもし、北京飯店ですか?」

 つながった先が、北京飯店か確かめる。

「北京飯店です」

 そう返ってくると、続けざまに言う。

「よく利用している赤池敏彦です。今日の夜七時から、二名で予約したいんですけど、大丈夫ですか?」

 予約可能か確かめようと尋ねると、電話口で予約簿を確かめているような音が聞こえてくる。それから、直ぐ、電話口の店員から予約可能であると返ってきた。

「二名様、今夜七時ですね。可能です」

 いきなりの予約だったので、席を取れるか不安だったが、予約可能であると安心する。

「料理の注文をある程度先に済ませて置きたいんですけど、良いですか?」

 来店前に料理の注文をしておきたい旨を伝える。

「はい、構いませんよ。ご注文をどうぞ」

「皮蛋、棒々鶏、炸鶏、酢豚、焼売、炒飯、海老と卵の炒め、八宝菜、卵スープ、杏仁豆腐、老酒をボトルでお願いします」

 敏彦は、電話口の店員に注文を伝える。

「老酒は前注文したものが残ってますが、それとは別に新しくですか?」

 店員に言われて、前に頼んだボトルを飲みきっていなかったのを、思い出す。封を切って、中途半なのを出すのはアレなので、新しいの頼もう。

「今晩のは新しいものをお願いします」

「わかりました。ご注文を確認させていただきます。皮蛋、棒々鶏、炸鶏、酢豚、焼売、炒飯、海老と卵の炒め、八宝菜、卵スープ、杏仁豆腐、老酒のボトルですね」

「はいそうです。おねがいします」

「来店お待ちしております。失礼します」

「失礼します」

 北京飯店に電話かけ終えると、一服することにした。

 ポケットに入れてあるシガレットケースを取り出したが、ショートホープの気分ではないなと、デスクの上に置いてある両切りのピース、いわゆるショートピースに手を伸ばす。

フィルター付きタバコに慣れているので、ピースの吸口側にパイプを取り付けて、火をつける。優しく吸って、口腔に溜めた紫煙を鼻腔から吐き出す。仄かなバニラ香が、鼻腔を通り過ぎていく。

 ピースのバニラ香を楽しんでいると、来訪者がやってきたことを知らせる扉を叩く音がした。残務を、とっとと終わらせて、六時までには、正面玄関に車を回したいのにと、思っていたので、舌打ちする。

「はい、どうぞ」

 敏彦が言うと、扉をノックしていた主が、部屋に入ってくる。

「飛島です。失礼します」

「なんか、用か?」

 赤池が、つっけんどんに尋ねる。

「一本貰っていいですか?」

 飛島は、要件を言わず、ショートピースを指し示しながら、予期しないことを聞いてきた。

「オッさん位しか吸わない煙草だぞ。それに体に悪いぞ」

 そう飛島に言うのだが、飛島はニヤッとする。

「赤池先生、私の正体知ってるでしょ?それに、ショートピースは、私に今の名前をつけれくれた人との思い出だから……」

 思い出と言うより、因縁がありそうなことを臭わしながら、飛島は言う。飛島の過去に何があったのかは詮索しない。探られたくないことは、誰にでも有るから……

「なら、やるよ」

 赤池は、そう言って、ショートピースを一本差し出し、ジッポーライターのフリントを擦る。飛島は、ライターの日にショートピースを近づけ、火をつけて紫煙を吐き出す。二、三度、鼻から紫煙を吐き出し、ピースのバニラ香を楽しむ。そして、またニヤッとして、聞いてくる。

「赤池先生、この後、誰かと食事ですか?」

「何で知ってる!?」

 飛島が来る前の話なのに、何で知っているんだと敏彦は、驚きながら飛島に尋ねる。

「だって、部屋の外にまで聞こえる声でしたから」

 飛島は、部屋の外まで聞こえていたと言う。部屋の外にまで聞こえる声で、電話をしているとは思っても居なかったので、恥ずかしさで赤面する。

「赤池先生、何か良いことでもあったんですか?部屋の外にまで聞こえる声で電話してましたけど?」

「まあ、良いことと言えば、良いことだな」

 ばつが悪そうに飛島に答える。

「良いことって、何ですか?」

 飛島も飛島でわざとらしく聞いてくる。

「プライベートなことだ」

 そう、答えると、得心がいったような顔をする。

「それなら詮索しません」

 飛島は、そう言って、詮索してこない。

「そう言えば、何の用で来たんだ?」

 煙草を一本くれとか、部屋の外にまで聞こえる声の理由を聞かれて、当初の目的を聞きそびれていた。

「『魂は減数分裂するか』の話です」

 本題を忘れるところだったと、言わんばかりの顔をして、飛島が言う。

「あれか。何だ、自分なりの答えでも、開陳しに来たのか?飛島、お前の場合は、自分なりの答えというより、正解に近いものを知ってるんじゃないか?」

「それは買い被り過ぎですよ。私にだって、知らないことはありますから……」

 飛島は買いかぶり過ぎだと言う。しかし、定命の者が到達できる知の領域を超越しているのだから、謙遜は逆に嫌味に思える。そんなことは、おくびにも出さずに、飛島に言う。

「そうか。俺は、講義の後、答えに近づけた気がする」

 答えに近づけたと言うより、答えと言っても良い物を、まじまじと見せつけられたと言うのが正解の様な気もする。

「なら、私の答えというか、意見は要らないんじゃないんですか?」

「なんで、そんな事言う。俺が近づけたものが、正解とは限らないぞ」

 答えだと思ったものが違うかもしれないと、飛島に言う。

「赤池先生、今日は忙しいでしょうから、後日、出直します」

 電話の内容から何かを察したのか、そう言って踵を返えそうとする。

「明日は、講義もないから、昼からは研究室所属の学生が、指導を受けに来ていなければ、応対できるから」

 明日の昼なら応対できるかもと、飛島に言う。

「わかりました」

 飛島は、そう言って、扉の方に向かおうとした。その時、ふと床を見ると、白い羽根が落ちていた。

「あの子ったら……」

 飛島は、聞こえるか聞こえないかと言う小さな声で言いながら、その羽根を拾い、ポケットにねじ込む。

「何か言ったか?」

 赤池敏彦は、飛島が何か言っているようだったので、不思議そうに聞く。

「何でもないです」

 飛島は、そういうと、扉の方に向かっていった。

初めて完走させた小説になります。あちらこちらに、謎になっていないかもしれない謎を仕掛けています。書く気力が残っていれば、謎に対する回答編の様な小説を書くつもりです。

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