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魂は減数分裂するのか  作者: 春採太郎
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プロローグ

 皐は、高校在学時、帰り道に立ち寄った本屋で老舗オカルト雑誌の表紙に、父親の名前が載っているのを目にし、父親が大学教員をしているのを知り、教鞭を執っている大学を目指していたのだが、入学試験日に鬼の霍乱とでもいうべき発熱で、試験を受けられず浪人していた。

 しかし、父親が随時聴講生を受け入れていることを、たまたま知り、今日から聴講生として、大学に通うのだが、皐は、自室のクロゼットから服を取り出して、あれでもないこれでもないと悩んでいた。今日着ていく服を選ぶために……

「どの服を着て行こうかな。これは、なんか子供っぽいし、こっちは大人っぽいけど、何か違うし……」

 皐がブツブツ言っているのは、部屋の外に居たアケミ先輩に聞かれていた。

「皐、着ていく服を選ぶのに、悩んでるの?」

 半開きになっていた部屋の扉を開けて、皐の部屋に入り、皐に聞く。

「アケミ先輩、今日、何を着てこうかなって……」

「あっ、そうか。今日、お父さんに会いに行くんだっけ?」

「はい」

 皐は破顔させながら言う。

「それで、着ていく服を選ぶのに苦労していると……」

 事情を察したアケミは、クロゼットとベッドの上に並んでいるスカート等を見比べながら、無地のミモレ丈のプリッツスカート、半袖のブラウスを選んで、皐に示す。

「こんな感じでどうかな?」

「アケミ先輩、凄い。本物の女子大生に見える」

 皐はアケミが選んだ服を見ながら、感心する。

「伊達に、本物の女子大生をしてたわけじゃないから!」

 アケミは胸を張って言う。

「アケミ先輩、ありがとうございます」

 皐は、アケミ先輩にお礼を言う。付け焼き刃で女子大生の服装を真似ようものなら、一発でモグリだとバレてしまうだろう。父親が開講している講義自体は、聴講生を受け入れているので、浮いた格好をしていても、聴講生だろうと流されるだろうが、研究室の有る学科棟となれば、浮いた格好をしていれば、何処の何某かと誰何されてしまう。父親との対面を邪魔されたくないので、不審人物だと守衛室に連行されるなんてことは、絶対に避けたい。

着ていく服が決まって一安心した皐には、新たな懸念が生まれていた。生まれていたというのは正確ではない、逢いに行こうと思った時から、既に懸念は生まれていた。その懸念とは、父親が自分を受けいれてくれるのかと言うものだ。

父親は、皐の存在を知らないのである。母親が認知を求めなかったために、その存在を知らないと言うわけではない。皐は本来なら、この世に存在しないはずの存在である。それ故に、父親はその存在を知らない。皐は心配するのには、存在を知らないという理由以外に、もう一つ理由があった。皐は姿こそ人ではあるが、人とは違う生き物なのだ……

「アケミ先輩、お父さん、私のことを受け入れてくれるかな……」

 皐は、アケミ先輩に不安を吐露する。アケミは皐を抱きしめて、

「最初は戸惑うかもしれないけど、きっと受け入れてくれるよ」

 あけ美は、皐を安心させるように言う。

「アケミ先輩、そうかな?だって、私……」

 皐は言葉を詰まらせる。父親が開講している講義は、世間ではオカルト扱いされる内容を、政治的、社会的、民俗的、宗教的観点から研究考察するものだが、研究考察対象が実在するとは思っても居ないだろう。自分がそれですと言ったら、正気を疑われるだろう。父親が医学部を中退して、欧州やアジアの宗教、民俗の研究をしている人文社会科学科がある大学に入り直しているが、変な宗教に救いを求めるような短絡的なことをせずにいると信じたい。

「皐、大丈夫だよ。皐のお父さんは……」

 そう、アケミは言いかけて、止めた。言うべきではないと思い留まった。父親との対面前に知るようことではないと……

「アケミ先輩、お父さんのことなにか知ってるんですか?」

 アケミが途中で話をやめたので、皐が怪訝そうに聞くと、アケミは、

「皐のお父さん、その筋では有名な人だから……」

と、誤魔化す。オカルト扱いのものを、既存の学問領域から研究考察し、その筋では有名なのは確かなのだが、それを隠れ蓑にして、有る種の古文書等を蒐集し研究していることは、とても言えない。

「アケミ先輩、何か隠してません?」

 皐がアケミ先輩に、何か隠していないかと迫るが、

「皐、お父さんの講義は、昼一じゃなかった?そろそろ、出かけないと間に合わないんじゃない?」

と、時計を指差しながら、アケミは皐に言う。時計を見た皐は、慌てて出かける準備をする。父親が勤務している大学は、アケミと皐が住んでいる場所からは、市営地下鉄南北線と日本旅客鉄道の学園線に乗り換えないといけないのだ。

「あっ、もうこんな時間!」

 皐は急いで着替え、アパートを出ていった。

「私も出かける準備をしないと」

 アケミも出かける準備をする。ストレートロングの髪の毛を、手早くポニーテールにまとめ、机の引き出しから眼鏡ケースを取り出し、眼鏡をかける。眼鏡は度が入っていない伊達眼鏡だ。

 アパートの隣室の住民は、きっと部屋の住民は三人だと思っているだろう。実際は二人なのだが、アケミがストレートロングの髪の毛をポニーテールにし、眼鏡をかけると雰囲気がガラッと変わって、同一人物だとは思えないから……

「皐は大丈夫だろうけど、先生は大丈夫かな……」

 アケミは、独白する。

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