私の目を見て言いましょう
「もう、私に付きまとわないでくれ」
この国の第一王子アルヴィンスは婚約者であるサランリーナ・アストロフィ公爵令嬢ーー私を見てそう言い放った。
*
こんばんは、皆様。
私はサランリーナ・アストロフィです。たった今「付きまとわないでくれ」を宣言されました。
今は第二王女ナーシャ様の13歳の誕生パーティーです。
周りの方々は一瞬の静寂の後ざわつき始めます。ざわめきはけしていいものではありません。なぜなら、殿下の隣には殿下と恋仲と噂されているミリアリア・マートル男爵令嬢がいるのですから。
彼女は豊かな桃色の髪に、大きな緑の瞳の愛らしい方です。病弱らしく、そのせいで貴族が必ず通わなければならない王立ルート学園へ遅れて入学してきました。
が、しかし彼女は天真爛漫な性格と人を惹き付ける才を持っていたらしく、あっという間に学園に馴染んでしまいました。それどころか、たくさんの生徒に囲まれる姿をよく見かけます。
今も第一王子を始め、数人の男性と一緒にいらっしゃいます。
殿下は王族の人間として、彼女を気にしていました。あまりに気にして、彼女に話しかけるための台本を書くのはやりすぎだと思いましたが。
それは後で話すとして…
今は殿下のお言葉です。
「どういう事かお尋ねしても?」
扇を広げながら首を傾げました。
「もう…さんざん我慢してきた。しかし、もう限界だ。私の周りの人を傷付けようとするのはさすがに許すことが出来ない」
彼はいつもの微笑みではなく、険しい顔をして私を見ました。彼の空のように透き通った碧眼に見つめられるとくらくらします。彼はもう少し自分の顔がかっこいいことに気づいてもいいと思います。
太陽の光を集めたような金髪、一つ一つがパズルのピースのようにきれいにはまっている整った顔。近衛騎士団の皆様に鍛えていただいた身体は程よく引き締まっています。「太陽の加護を与えられた王子」と名高いアルヴィンス様。
対して彼の婚約者である私は、老婆のような白髪に血濡れのような赤目。彼と正反対の色をもつ私には、容姿というハンディがありました。身分と、とある事情で選ばれた婚約者の地位ですが、せめて少しでも王子の隣に並んでも見劣りしないようにと今まで頑張ってきました。今でこそ胸を張って彼の側に立てますが、まだ少し緊張します。
ですが、まずはこの場をうまく納めないことには先に進めません。
「なんのことですの?」
「殿下は今まで苦しんでいたんだ!!」
と言うのは近衛騎士団団長の子息であるラオス様。
「いい加減にして下さい」
そう言ってため息をつくのは宰相閣下の子息であるシュベルト様。
「…」
無言で困った顔をするのは宮廷魔術師であるキース様。
「殿下、全てをここで言ってしまいましょう」
そう言って殿下を促すのは私の従兄弟であるエルストン。
「そうよ、アル!言ってしまいましょう!大丈夫、私は貴方の味方よ!貴方の事、私は分かっているわ!」
そう言って殿下の腕をとり、私を睨み付けてくるのはミリアリア様。
…彼女の行動に周りの方々は眉をひそめます。貴族としての教養がある紳士・淑女の皆様は、見苦しい者のように彼女の事を感じるでしょう。私も初めて学園で、彼女の言動を見た時には信じられませんでした。
公の場で殿下を呼び捨て、許しも得ずに発言し、言葉使いもおかしく、あまつさえ婚約者の前で殿下に寄り添う…など、貴族社会では許されません。「皆平等」を謳う学園でさえ身分は暗黙の了解となっています。その学園でも、さんざん身分を無視した行動があり、皆様の反感を買っていました。
そしてなにより…
「殿下、お言葉の前に一つ発言をよろしいですか?」
「あぁ、許そう」
「ありがとうございます。
では、ミリアリア様。そのドレスはどう意味ですの?」
私は扇で隠した顔をしかめて尋ねました。
これは、このパーティに参加するほとんどの貴族が思ったことでしょう。
「これ?普通のドレスじゃない。はっ、まさかこのドレスにケチつける気じゃないでしょうね!!」
彼女が身に付けていたのは黄色のドレス。愛らしいミリアリア様にはよくお似合いですが、このパーティで黄色のドレスを着ているのはたった二人だけ。そのうちの一人がミリアリア様。そしてもう一人が…
「いいえ、そういうことではありませんわ。けれどもなぜ、ナーシャ様と同じ色のドレスを着ていらっしゃるの?」
そう、彼女はこのパーティの主役であるナーシャ様と同じ色のドレスを着ていたのです。普通は、パーティーの主役のドレスの色を事前に調べて、被らないようにするのですが…
「何が悪いの?」
何も気づいていないミリアリア様に頭が痛くなります。
「……いえ、お待たせいたしました、殿下」
「あ、あぁ…」
殿下も驚いたようです。デスヨネー、普通驚ロキマスヨネー。
「ゴホンッ!
まずは、入学してから、あの手この手を使って側にいようとするのをやめて欲しい。
そして、私の周りの人を…一番大切な人を傷つけようとしたことは許されない。後は、私が話した覚えのないことを知っていることは正直、気持ちが悪い。人の趣味をどうこう言うつもりはないが、香水が強すぎる。隣にいると鼻が曲がるかと思った。常識のない振る舞いに、周りがどう思っているのか考えているのか。貴族としてのプライドがないのか。後は、そうだな…」
お、思った以上に次から次へと出てくるので驚きです。
そして、これを言う間けして、私から目を放さないなんてすごい集中力です。
「……………と、ずっと思っていた。そして、最初から言うように、一番許されない事は私の大事な、大事な恋人を傷つけようとしたことだ。」
真剣な表情で言いきった殿下。
「大事な恋人」というとことで、頬を染めるミリアリア様。
「?」
そんな彼女を見て怪訝そうな顔をする殿下に私は声をかける。
「殿下。それで終わりではないでしょう?」
「あ、あぁ!
ーーミリアリア・マートル男爵令嬢。もう、私に付きまとわないでくれ!」
最後だけミリアリア様を見て言いきった殿下はすごく頑張ったと思います。
「・・・はい?」
状況が呑み込めてないミリアリア様の声がやけに響きます。
「殿下!すごいです!よく頑張りましたね」
「あ、あぁ!」
いつものように微笑みを浮かべながら殿下を褒めました。
実は、殿下ーーアルは小さい頃から対人恐怖症でした。知らない人の目を見て話すことがどうしても出来ず、何も知らない人からは大変な反感を買っていました。王としての素質はあるのに、対人恐怖症のせいで人前に出ることが出来なかったのです。
何も知らない貴族達の中から、二つ下の第二王子リアン様を王に、と推すものが出てきました。王は悩みました。人前に出さない方がアルのためになるのではないのかと。
そんな時、母を亡くした抜け殻のような少女が王宮にやってきます。アルはなぜか、その少女だけは初対面でも平気でした。二人は毎日一緒にいました。すると、少女も段々と元気を取り戻していきました。
王は、少女が公爵令嬢と言うこともあり、少女とアルを婚約させました。公爵令嬢の少女と第一王子のアルが婚約したのは自然な流れでしょう。
…令嬢の父の目に光るものがあったらしいですが。
そうして、しばらくしたら、アルの対人恐怖症が段々薄れてきました。それは、少女との特訓の成果でした。王は安心しました。しかし、まだ人の目を見ては話すことが出来ません。
そこで少女は決意しました。
「私がアルの目になろう!」と。外交や、対談はサポートが出きる限り頑張ろうと。
そうして、二人はお互いを高めあいながら頑張ってきました。
それが今の私とアルです。
「ち、ちょっと!!どういうことなの!?アル?どうしたの?
はっ!まさか、この女に言わされてるの!?そうよ…それしかあり得ないわ!」
……これには私も驚きました。アル達も言葉がでないようです。
そもそも、事の発端は王族としてミリアリア様を気にかけていたアルに彼女が相談をしてきたのが始まりでした。
彼女の相談とは誰かに視られているというものでした。彼女は愛くるしい少女ですのでそういったことがあるのは納得することができました。なので、アルは学園内での不祥事は王族の責任だ、と彼女を守ることに決めました。
まずは、彼女の身辺調査をすることになりました。すると、信じられないような内容が出てきました。
彼女の病弱さは「魅了の魔法」が原因だったのです!
「魅了の魔法」とは、その名の通り人を魅了する魔法です。何十年かに1人の割合でその力を持った人が生まれてきます。魅了の力を持って生まれた人はだいたいが短命です。理由は、自分の命を削ってその力を使っているからです。ミリアリア様が病弱なのもそのせいでしょう。
しかし、命を削って使うからこそ、その力はとても大きいものになります。自分の意思でその力を使えるようになれば国をも乗っとることが出きるのです。
そのため、「魅了の力」を持つものを見つけた場合は国に報告することが義務付けされているのですが…
彼女の父、マートル男爵は力の事を知っていながらなんの対策もしておらず、それどころかその力を使って貴族達を操ろうとしていたのです!
これは、国への裏切り…つまり、謀反になります。この事をアルのお父様ー国王様へ報告すると、
「ちょうどよい、アルヴィンスよ。これを御主の学園課題にするぞ。」
と、笑顔で返ってきました。
それに、
「なに、御主たちが学園での勉強が終わっておるのは報告が来ておる。これは、アルヴィンスが王にふさわしいかどうかのテストだ。サランリーナ嬢、将来の妃としてアルヴィンスを支えてやってくれ。」
ということも。
……その時私は、父が頭を押さえながら言っていた「陛下は幼いときから笑顔で無茶ぶりをするんだ!!お願いだから、殿下は普通に育ってくれ…!!」と言う言葉を思い出しました…
*
そしてやっと、二人で協力をしながらこの日を迎えました。
もう、本当に大変でした…
アルがミリアリア様の監視、私が情報集めをしつつ、他の生徒たちには不審がられぬよう学園に通い…
途中で何かがおかしいと気付いたアルの側近候補達に手伝わせて、ようやく証拠が集まり陛下に及第点をもらうことが出来ました。
やはり、一番大変だったのがミリアリアの態度…でしょうか。
ミリアリア様は、アルに愛されていて、それに嫉妬した私にいじめられていると思い込んだのです。これには皆で頭を抱えました。
原因はわかっています。アルの台本です。アルは王子として人と長期に渡って人と接する時、台本を作っています。今回は、女の子という事で妹の第一王女アマリリス様に助けを求めました。
そう、愛読書が恋愛小説のアマリリス様に…
そうして、ミリアリア様の勘違いが始まったのです。これは、こちらの責任ですが、勘違いしていてくれた方が都合がよかったのでそのままにしておこうということになりました。
魅了の魔法はそれを打ち消すことのできるペンダントで防ぐことが出来ました。
しかし、学園の中にはミリアリア様の魅了の魔法にかかった人たちもいたのです。これには困りました。関係がないので傷つけるわけにもいかず、かといって無視もできず…
最終的には宮廷魔術師のキース様が魅了の魔法を打ち消すことのできるペンダントを全員分作ってくださいました。
*
そして、一番最初の言葉に戻ります。
陛下は他の貴族への牽制として、この場を選びました。もちろん、主役のナーシャ様の許可もとってあります。
実は一番堪えていたのはアルでした。元々の対人恐怖症に加え、苦手なタイプのミリアリアと、この1年間ずっと一緒にいてくれたのです。
ミリアリア様に「言いたいことは山ほどあるけれど、自分の言葉で本人に話すことが出来ない」と言うアルに「私の方を向いて話すといい」と提案をしました。
その結果大成功に終わりました。
私は、まだ何か喚いているミリアリア様に向き合いました。
「ミリアリア様」
私の声が届いたのでしょう。ピタリと口を閉ざし睨み付けてきます。
「……何よ」
いつの間にか会場はシーンとなって、私たちの声が響き渡ります。
「あなたは自分の欲のために、たくさんの人を傷つけました。」
「それのなにがわるいの?」
ミリアリア様は本当に、本当にわかってない様子でした。
「だって、お父様が言ったもの。
もし、王子様から愛されたら他の人も………お母様も私を愛してくれるって!!」
「やはり、そうでしたか…
では、あなたはマートル男爵から指示されて魅了の魔法を使ったのですね?」
「えぇ、そうよ!私のこの力があれば、国をも得られるのですって!」
「「「「「「!?」」」」」」
ミリアリア様がそう言った瞬間、貴族達から声にならない悲鳴があがりました。
「マートル男爵を捕らえよ!!」
殿下のーーアルの声で衛兵が動きます。
衛兵に押さえられ連れて来られた男爵は何というか、その…人の倍ぐらいふくよかな方でした。
彼は、娘のミリアリア様を見るなり
「おいっ!!!このクズがっっ!!
今まで育ててやったのに恩を仇で返すとは何事だ!!」
「!!ごっ、ごめんな、さい…」
と、喚き出しました。
報告書には載っていたので、予想はしておりましたが…
想像以上の光景に気分が悪くなります。
その時、アルが肩にそっと手を置きました。
「サラ、落ち着いて」
あぁ、彼に言われると、何故でしょう…なんでもできそうな気がします。
「えぇ、アル、ありがとうございます。このまま支えていただいてもよろしいですか?」
「あぁ、もちろんだよ」
私の言葉は、アルの言葉。アルの言葉は、私の言葉。アルは私の全てで、私もアルの全て。
ーーーよし!!
「マートル男爵。貴方は娘のミリアリア様の力を利用して、殿下を誘惑し、この国を乗っ取ろうとした。」
「ち、ちがうっ!私はそんな!そんなことはしていない!!」
男爵は必死に首を振って否定していますが、
ふふ、私達が何の証拠もなくこんな事をしたと思っているのでしょうか?
「否定なさるのは結構ですが、証人もおりますのよ?」
「な、ばかな!!そんなものいないはずだ!!」
まぁ、その言い方だと悪事を認めておりますが…
気づいてないようです。
「では、入っていただきましょう
ーーこちらへどうぞ」
入ってきたのは一人の女性です。
年は私のお母様と同じぐらい。艷やかな桃色の髪をハーフアップして緑色の瞳を伏せている様子はどことなく色気があります。とても美しいの女性です。
彼女はゆっくりと礼をしながら困ったように微笑みます。その視線は私たちを通りこしてある一点を見つめています。
「!?あ、あああ…」
「な、なぜお前がここにいるんだ!?」
ミリアリア様とマートル男爵は大変驚かれています。それもそうでしょう。
その女性は、ミリアリア様の本当のお母様なのですから。
「お久しぶりですわ、旦那様
……ミリア」
「お、かあさま…?」
「えぇ、本物の母ですよ」
「お、お母様!お母様お母様お母様お母様ぁ!!!」
ミリアリア様はひと目もはばからず、母であるディアナ様に抱きつきした。
「ミリア…ごめんなさい。今まで大変な思いをさせてしまいましたね」
ミリアリア様のした事は決して許されることではありません。何も知らないというのは、言い訳にはならないのです。
…ですが、この光景を見ると彼女は彼女なりに、頑張っていたのだと分かります。
「どうしてお前がここにいるのだっっ!!!!」
マートル男爵はこの光景を見て罪悪感を抱かないのでしょうか…
彼が全ての原因だというのに…
ディアナ様はミリアリア様を支えながら男爵を哀しそうに見つめ、
「旦那様、すべてを終わらせるときが来たのです。」と静かに告ました。
「勝手なことを言うなっ!お前らはただ黙って私に従っておればいいんだ!!」
「マートル男爵を黙らせろ!ディアナ様…とお呼びしても?」
「はい。もちろんですわ、殿下。」
「貴女が知っていることを全てお話いただけますか?」
「…はい。
私は、マートル男爵家のメイドとして働いておりました。そして、その家の長男であるルーク様…今のマートル男爵と恋仲になり、子を宿しました。それがミリアリアです。
しかし、ルーク様には婚約者がおり、このままではこの子が殺されてしまうと思い屋敷を出ました。そして、二人で貧しいですが幸せに暮らしておりました。
ですがミリアが15歳になった頃、急にルーク様が訪ねてきて、ミリアを引き取るとおっしゃいました。
貴族の娘としてきちんとした教養を身に着けさせるから、と。ミリアは自慢の娘でした。なので、このまま下町で一生を過ごすより、貴族として幸せになる方がこの子の為なのではないか…と思いミリアに会いたい時には会える事を条件にルーク様の提案を受け入れました。
ですが、今では心より後悔しています…
ルーク様は約束を守っては下さいませんでした。ミリアに会いたいと言うと、
『あの子はもう貴族令嬢になったんだ。お前のような平民が気安く会えるものではない』
と言われ、一度も会うことは叶いませんでした。
そして、ある日いきなり捕らえられました。
私はミリアに対しての人質だ、と言われました。そこで初めてミリアに魅了の力がある事を知ったのです。
昔から人に愛される子でしたが、まさかそんな力をもっているとは思いませんでした。
ルーク様は、その力を使うと国を手に入れられるとよくおっしゃっていました…そして、ミリアを他の貴族の方と交流させて、自分に都合の良い方向に誘導しておりました。
私が知っている事はここまでです。」
ディアナ様はとてもお辛そうです…
娘を幸せにしようと思った行動が、全て裏目に出てしまったのですから…
「ディアナ様、ありがとうございます。
そしてここに、ディアナ様の証言を裏付ける、証拠の書類もございます。
さて、マートル男爵。何か言いたいことはございますか?」
私は衛兵に抑えつけられているマートル男爵に目を向けました。
「……………」
彼はもう、何を言ってもだめだと悟ったのでしょう。抵抗をやめ、無言でこちらを睨んできました。
「何も無いようですわね」
「あぁ、では連れて行け!!」
「「はっ!」」
ディアナ様とミリアリア様は、マートル男爵を複雑な表情で見送っていました。
「さて、ミリアリア様」
ビクッ!と肩をすくませながらおずおずとこちらを見上げてくるミリアリア様。
「貴女は命令されていたとはいえ、その力を使い学園を混乱に陥れました。
ミリアリア・マートル男爵令嬢は魅了の力を持つため、王家の監視化に置かれます。王家が支援しているレイブィ修道院へ行ってもらいます。」
レイブィ修道院は貴族の女性専用の修道院です。問題を起こした方や、夫に先立たれた方などが入ります。
規則に厳しく、そこの修道院長は王族の血を引く方がされるので、貴族の上下関係などの問題もありません。
しかし、そこに入ると出ることは死ぬまで出来ません。
「サランリーナ様、発言をお許しください。
ーーこの度のことは何も出来なかった私にも責任があります。私、ディアナ・シエスタもレイブィ修道院へ参らせてください。」
「!?お母様が行く必要はないわ!!」
「いいえ、ミリアリア。私がルーク様を止められたら…」
正直な所、お二人はマートル男爵の被害者です。しかし、ミリアリア様は周りを騒がせすぎてしまいました。加えて『魅了の力』。
もし、ここで許してしまえば、今後ミリアリア様を利用しようとする奴らが出てくるでしょう。
「ディアナ様…分かっておられますね?」
「はい…」
ディアナ様は全てを覚悟されているようです。
「二人を連れて行け!」
アルの命令で衛兵が二人を連れていきます。
「アル…いえ、殿下…そして、サランリーナ様。誠に申し上げございませんでした。
私が言うのもおかしいとは分かっておりますが、どうかお幸せになって下さい。」
そう言って淑女の礼をしたミリアリア様は今までで一番お美しいと思いました。
*
お二人を見送ったあとざわざわしている会場内に、陛下の声が響き渡りました。
「騒がせたな!これより、パーティを再開する!」
その言葉と共に、演奏が始まりすっかり元の雰囲気になりました。
私とアルは陛下に別室へと呼び出されました。
「よくやったな、二人共。
アルヴィンスよ、お前の願いを叶えよう。」
「父上…!」
?なんの事でしょう?アルの願い…?
私が首をひねっていると、アルが私の手をとって跪きました。
「サランリーナ・アストロフィ公爵令嬢。
ーーーー私、アルヴィンス・リドアスと結婚してください。」
………!?え、えぇ!?待って、話についていけない!!
驚き過ぎて口をぱくぱくしているとアルが泣きそうな顔になりました。
「やはり、こんな情けない男では無理だよな…」
「そんなことないわ!!」
いきなり大きい声を出した私を驚いて見る、アルの顔を正面から見て言いました。
「アルの優しいところが私は大好きなの!私の好きな人の事をそんな風に言わないで!」
「っアッハッハッハっ!お前ら、面白いことしてんな!
もう、さっさと結婚してしまえ!」
あっ…陛下がいらっしゃる事、すっかり忘れていました…
しかし、ここを逃すと次がいつになるか分かりません。
よし!
「アル。私と結婚してください。」
「えぇ!?」
「結婚!するの?しないの?」
「し、します。…させてください!」
「ということで、陛下!私たちは結婚します!」
「…お前ら、本当に面白いなぁ…
よし!リドアス王国国王カルドルトがその婚姻、認めよう!」
*
そうして、私達は結婚しました。
色々ありましたが、今が幸せならいいんですよ!
旦那様、これからも
「私の目を見て言ってくださいね?」