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偽・信長公記――信長に転生してエクスカリバー抜いて天下布武る俺――  作者: 曖昧


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30/82

30話

ちょいとご指摘があったのでジャンル変更しました。

エクスカリバー出しといて歴史ジャンルってよりも

戦記でお茶を濁すしかないですわ。

 京を脱出した信長は用意させていた騎馬に飛び乗り美濃を目指しているのだが……。


「ところで、お前も美濃まで来るのかよ家久」

「え、あ……」


 見るべきものは見られた。

 兄弟での話し合いに使う判断材料は十二分に得られたのだ。

 信長としては途中で分かれると思ったのだが、気付けば美濃までもう少しのところまで来ている。

 ちなみに久秀は途中で分かれて居城へと帰っている。

 城主としてずっと留守にしっぱなしにするわけにもいかないのだ。


「……」

「お前、何も考えてなかったな?」

「た、楽しかノリでん……おいもついつい後のことを忘れてい申した……」

「ハハハ! 面白い奴だ。だがまあ良い、折角だからゆっくりしてけ。歓迎するぜ?」

「ありがたき御言葉!」


 嘘偽りない本音である。

 信長が打った大舞台は衆目のみならず家久をも魅了するものだった。

 もっとこの男を見ていたいと思ったので信長の提案は渡りに船。


「そうしゃちほこばるない。お前は部下でも何でもねえ、客人なんだからな」

「あ、いやそうもいかんです」


 年上で、何より器量の違いと云うものを魅せ付けられた。

 長い間接している、或いは自領の民であれば家久も熱狂させることが出来る。

 しかし、信長は違う。確かに京の民は信長のことをそれなりに知っていただろう。

 だがそれだけだ。直接の領民ではない以上、信長の恩恵に預かることもない。


 だと云うのに信長はまとめて全員熱狂させてみせた。

 まあ、頭の良い人間の場合は損得を考えて乗っただけだが乗せられるだけのものを見せたと云う時点で大差は無い。

 そんな男ともう少し話がしたい、何をするのかを遠く薩摩の地からではなく間近で見てみたい。

 向学心の強い家久にとってはその感情が湧き出すのは当然の帰結だった。


「案外真面目な奴よな」


 信長が抱く島津のイメージはバーサーカーだっただけに少しばかり意外だった。

 流石に失礼だったかと思い心の中でイメージに修正を加える。


「ま、良いや。それより、お前の兄貴の話でもしてくれよ。岐阜城まではまだ少しかかるしな」

「兄上どん達のこと……?」

「おう、名高き島津四兄弟の武勇伝でも聞かせてくれい」


 信長ほどの男に名高きと云われれば世辞でも嬉しくなってしまう。

 家久は分かり申した、と頷き誇らしげに兄達の話を語り始めた。

 この家久と云う男、中々に話し上手で信長も思わず聞き入るほどだ。


「おいは、妾腹の子でして……母も、正直云いますとそう身分の高い女でもなか。

だもんで、昔は随分と卑屈になって居申した……いや、恥ずかしながら」

「ほう、意外だな。今は卑屈さなんぞ感じないが……」

「そりゃ兄上どんのおかげです」


 そう、あれは四兄弟で鹿児島吉野で馬追を行った時のこと。

 馬追を終えた後、家久は自分がこの場に居るのは場違いだと鬱々とした思いを抱いていた。


「そんな折、歳久の兄上どんがおいを奮起させんばため義久と義弘の兄上どんにこう云い申した」


 こうして様々な馬を見ていると馬の毛色は大体が母親のそれに似ている、人間も同じなのだろうと。

 一見すれば妾腹の家久を馬鹿にしているように聞こえるがそれは違う。

 歳久は兄二人のフォローに繋げるために敢えてこのような物言いをしたのだ。


「おいはその通りじゃあと更に卑屈になったんですが……」

「ですが?」

「義久と義弘の兄上どんはキッパリ云ってくれたのです」


 母に似ることもあろう、しかし総てが総てそうと云うわけではない。

 父馬に似る馬もあるし、そもそも人間は獣などではなく心の徳と云うものがある。

 武芸に勤しみ学問に励んで徳を磨けば不肖の父母を超えられる。

 逆に自分はダメなのだと決め付けて怠惰に堕し、徳を疎かにすれば、父母に劣る人間となる。

 二人の兄が贈った言葉は雷鳴の如くに家久の心に響いた。


「それからっちゅーもん、昼夜問わず武芸と学問にのみ心を砕き申した。

そうしていると家中の者や領民も、嬉しいことにおいを他の兄上どん達と並べてくれるようになって……」


 努力は無駄ではない、そう実感したのだ。


「成るほどな。腐らずに奮起出来たのは良い兄貴が居たからか。良い兄貴じゃねえか、俺も見習わなきゃな」

「薩摩に戻ったら信長殿がお褒めになられていたと必ずお伝えしましょうぞ」


 そうこうしていると織田家の岐阜へと辿り着く。

 岐阜城下の人間は信長の帰還に沸き立ち、信長も笑みを浮かべながらそれに応える。

 城への道中、山麓にある屋敷に寄り家久を接待するよう云い含めて信長は入城。

 城内に入ると帰蝶が直ぐに飛んで来て、


「信長様!!」

「っとと……悪い、心配させたな」


 胸に飛び込んで来た妻を強く抱き締め自分は此処に居るのだと伝える。

 馬をこれでもかと急かして岐阜へとやって来たのでまだ京での一件は伝わっていないらしい。

 しかし、伝わるのも時間の問題だろう。


「俺が不在の間の話、色々聞きたいが……その前にマーリンは居るか?」


 云うや背中に温かで柔らかな感触が伝わった。


「ええ、此処に」


 どうやら信長の影から出現して抱き付いたらしい。

 普通に登場しろよとも思ったが、心配させたのでちょっとした意趣返しと云うことだろう。


「おお、そこに居たか。早速で悪いが風呂用意してくれ風呂。それと飯も、腹が減ってしょうがねえ。肉が喰いたいね肉が」

「分かったわ。帰蝶様、食事の手配は御任せして良いかしら?」

「ええ、湯浴みの方は頼んだわ」


 そんなやり取りを交わした後、信長は天守にあるプライベートな居住空間へと向かう。

 基本的にこの時代の城は住宅と云うわけではない。

 実際信長も屋敷は別に用意させてある。

 が、そこはそれ。城に詰めることもあるのならば暮らし易い方が良い。

 稲葉山城を改築する際に、住宅としても利用出来るようにしたのだ。

 その際、自らかなり手を入れたので信長としては屋敷よりも天守の方が居心地が良かったりする。

 だからこそ帰って直ぐに城へとやって来たのだ。


「あぁ……たまんねえ…………」


 マーリンが作り出した湯の球体に入り汚れを落としていく。

 洗濯機の気分だが、これが中々快適。

 ハイになっていたから感じていなかった疲れもドっと噴き出し眠ってしまいそうになる。


「信長様、その傷……」

「ああ、これか? 大丈夫だ。目蓋を切られただけで眼球までは傷付いちゃいねえ」


 撤退戦の際に負った左眼の傷。

 これはこれで伊達男ぶりが上がったかな? などと冗談めかして笑う信長だがマーリンからすれば気が気ではない。


「もう……どうする? 傷は消せるけど……」

「おー……視力に異常があるわけでもねえし、こいつは戒めとして残しておくわ」

「そう……」


 入浴を終え、真新しい褌を装備し綺麗な着物に袖を通しようやく一息。

 天守の縁に腰掛け城下を見渡せば心地良い風が頬を撫でてくれる。

 これもまた城へ足を運んだ理由の一つだ。


「マーリン」

「なぁに?」

「今回のな、長政の裏切りについて……どう思う? お前も何度か会ったことあるだろ?」

「……信じられない、としか云いようがないわね」


 ならば魔道、と決め付けることも出来ない。

 小谷城へ偵察用の使い魔を送ればある程度分かるかもしれないが、現段階では魔道の影は見えず。

 だと云うのに此方が魔道を使用すると云うのは信長とマーリンが自ら定めたルールに反する。


「だよなぁ? つかさ、魔道だとしても……だ。織田にゃあお前が居るんだぜ?」


 魔道を使うと云うことは出鱈目魔女のマーリンを魔道の徒として参戦させることに他ならない。

 ハッキリ云ってそんな度胸のある輩が居るだろうか?

 いや、一応雪斎と云う前例はあったがアレはバレないと確信していたから。


「私はともかくとして……信長様は、何か感じなかったの?」


 雪斎の暗躍すら嗅ぎ取った信長の直感。

 今回のことで何か無いのかと期待を込めて問うてみるものの……。


「ねえ。つか、裏切ってから長政と直接顔合わせてねえしな」


 裏切る以前のことを云うのならば何の反応もなかったと断言出来る。

 でなくば同盟を結んでお市を嫁入りさせるものか。


「っとに訳が分からんよ。だがまあ、訳は分からずともやることだけは分かってるから問題はねえがな」


 どうして裏切ったのか、それが分からずとも浅井を滅ぼすことは確定してしまった。

 二度目の弟殺し、思うところは勿論ある。

 それでも信勝の時よりは大分マシだ、その痛みを知っているから耐えることも出来よう。


「そうね。でも、問題はお市様」

「ああ。浅井の連中もまさか殺してはいないと思うが……」


 織田から嫁いで来た、それだけでお市を殺せば浅井の悪名はぐーんと上がってしまう。

 後々のことを考えるのならば悪手と云わざるを得ない。


「幽閉されているのだとしたら、浅井攻めの際に何としてでも救出したいが……」

「それならお猿さんに任せれば? あの子なら上手くやってくれるでしょう」

「藤乃か……今、武田の対応に回っているんだったな?」

「ええ」

「姑殿にも老骨に鞭打ってもらってありがたい限りだぜ。無論、親父殿もな」


 湯浴みがてら詳細な情報を聞いていたので信長も事情は把握している。

 京都に居た段階では武田が攻めて来たことぐらいしか知らなかったのだ。


「藤乃に竹千代、若いの二人だけなら武田のタコ坊主相手はちと不安だったが……」


 老練な道三と信秀が居るのならばそうそう心配する必要もない。

 道三と信秀の言葉であれば軽挙に走りそうになったとしてもちゃんと止めてくれるはずだ。


「ふわぁ……んー……いかん、本格的に眠くなって来た……飯はまだかなぁ……」


 金ヶ崎からろくに休息を取ることもなく京で大立ち回りをしたのだ。

 脳内麻薬ドッバドバ状態だったから何とか出来たが、落ち着いたことで噴き出した疲労は予想以上に重い。

 うつらうつらと船を漕いでいると、膳を持った帰蝶が天守の中へと入って来る。


「御待たせ、食べられる?」

「食べる!」


 オーダー通りにメニューは肉肉肉の肉尽くし。

 現代人ゆえ牛馬の肉も平気で食べる信長以外にはあまり受けが良くないメニューだ。

 鳥や兎、猪や鹿などはまあ、食べられてはいるがこの時代の人間が好むのはどちらかと云えば魚。

 しかし、体力をつけるには血肉を増やすためにはやはり獣肉に限る。


「ただ、酒はキツイからマーリン、冷たい水でも用意してくれ」

「ん、分かったわ」


 手を合わせいただきます! と大きく叫び肉をおかずに白米を掻きこみ始める。

 糧食しか食べていなかったため、温かい食事と云うのがこの上なく嬉しい。

 思わず涙が浮かんでしまうほどだ。


「うめえ……うめえ……!」


 焼いた肉は塩オンリーの味付けだが、それでも十分。

 一噛みするごとに溢れ出す肉汁とそこに混じる塩気と一緒に白米を食べればもう無敵。


「御代わりはまだまだあるのだし、焦って食べちゃ駄目よ」

「まあまあ、良いじゃないの帰蝶様。信長様もかなり御腹が減っていたようだし」


 二人の言葉にリアクションを返す余裕もなく食べ続ける信長。

 大盛りの丼飯を平らげたが、全然腹が膨れた気がしない。

 一々膳に盛るのも面倒だと御櫃から直接食べ始めてしまう。

 この旺盛な食欲を見るだけで、どれほど消耗していたかが分かると云うものだ。


「(……御代わり手配しておいて良かったわ)」


 最初はおかずだけにしようかと思っていたのだがこの様子では御櫃も追加しておくと云う判断は正しかった。

 帰蝶は天守に来た侍女からおかずと飯の追加を受け取り信長の近くへと運ぶ。

 最初の分を綺麗さっぱり平らげた信長はそのまま運ばれて来た御代わりに手をつけ始める。

 そうして半ばほどまで食い尽くしたところで落ち着いて来たのだろう。

 ペースが落ち始めた――まあ、それでも全部食べるつもりなのだが。


「ところで、微妙に帰りが遅いし妙な客人を連れて来たみたいだけど……何してたの?」


 もういい加減話も出来るだろうと思い、帰蝶が疑問をぶつける。

 信長が選ぶであろう撤退ルートについては帰蝶もマーリンも考えていた。

 だとしても帰って来るのが微妙に遅かった。

 先に帰還していた供廻りの人間からは先に帰れとしか云われていないらしく情報は得られなかった。

 薩摩の客人を連れて帰って来るとかこの男は一体何処で何をしていたのか。


「ん? ああ、ちょっと京で暴れて来た」

『はぁ!?』

「いやね? 流石にやらっれぱなしで引き下がるのはアレだし、流れも取り戻したかったからさぁ……あ、水御代わりね」


 キンキンに冷えた水で喉を潤しつつ、京での大立ち回りについて語る。

 明日明後日には美濃にまで噂は広まるだろうが、聞かれたのならば説明はせねばならない。

 そう判断して淡々と説明する信長だが、聞かされた二人からすればたまったものではない。


「ちょ……何そんな危険なことしてるの?! と云うかマーリン、あなた聖剣が消えたのに気付きなさいよ!」

「だ、だって部屋にあると思ったんだもん!」


 選定前のように触れれば即座に視界が繋がるわけではないのだ。

 プライバシーに配慮して任意に変更した今、エクスカリバーが消えても直に見なければ気付けるわけがない。


「俺ならやれると思ったんだよ。で、実際にやってのけたんだ。終わり良ければそれで良し、だ」


 三人前、四人前はあったであろう食事を綺麗に完食。

 腹をさすりながらゲップをかます信長の顔はこの上なく幸せそうだ。


「じゃ、寝ようか」


 まだ何か云いたげだった二人を強引に抱き寄せるや、女達は火がついたように顔を赤くする。

 何時まで経っても初心な感じがまたGOOD! と信長はますます元気になってしまう。


「え、ちょ……ね、寝るんじゃなかったのかしら? 湯浴みしてる時眠そうだったじゃない……」

「うん、普通に寝るつもりだったんだが腹が満たされるとこっちが元気に……嫌か?」


 なんて聞かれれば女達も赤ら顔でついついこう答えてしまう。


『い、嫌じゃないわ……』

「よーし! パパ頑張っちゃうぞー!!」


 桶狭間の後もこんなことをしていなかっただろうか?

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