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偽・信長公記――信長に転生してエクスカリバー抜いて天下布武る俺――  作者: 曖昧


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27話

「おうおう、まだ生きとったんか蝮婆。年寄りの冷や水って言葉ぁ知ってるか?」

「ハン! すっかり楽隠居で公家趣味に被れた猫爺にゃ云われたくないね。あんた上手くやれんのかい?」


 竹千代に集った今川軍、織田軍。

 城内では三方ヶ原へ進軍する前の軍議が行われていた。

 行動が迅速であったため、少しばかり時間に余裕が出来たのだ。


「舐めんじゃねえよ。倅があんな状態だからな、此処で踏ん張らにゃー親父の沽券に関わるだろうが」


 信秀もまさか自分が再び戦に出る機会が来るとは思ってもみなかった。

 しかし、織田家の危機とも云えるこの状況で動かねば本当の役立たず。

 期待通りに織田家を大きくしてくれた息子、十分過ぎるほどに孝行してもらった。

 ならば父親としてそれに報いねば嘘だろう。

 久しぶりの戦場ではあるものの、信秀は燃えに燃えていた。


「フン、云うじゃないか。が、その目を見たらそれなりに安心も出来るってもんさ」

「抜かせ。そっちこそ、まだまだ衰えちゃいねえみてえだな。おっかねえ婆だ」


 信秀も高齢ではあるが道三は更に高齢だ。

 ぶっちゃけもう死んでいてもおかしくはない年齢で、この時代だと破格の長生き。

 しかし、長良川で受け取った信長の言葉もあり今を以ってしてもぴんぴんとしている。

 無論、それだけではなく信長が進化させた聖剣の恩恵もあるのだろう。


 まあ、元々高齢だったため他の者達ほどの恩恵ではないのだが。

 しかしまあ、諸々の要素を差っ引いてもスーパー爺や婆と云うのは戦国時代には稀によく存在していた。

 朝倉のスーパーサイヤ爺宗滴や長野業正、北条早雲、北条幻庵、龍造寺家兼……挙げていけばキリが無い。

 ぶっちゃけ聖剣の恩恵なんぞ無くても普通に生きていた可能性はかなり高い。


 ひょっとしなくても聖剣って役立つの? と思うかもしれないが、まあそれなりに凄いのだ。

 ただその機能が発揮される状況が来ないだけで。

 例えば信長は桶狭間でビームを撃つ振りをして隙を誘った。

 彼自身もビームなんて撃てるわけがないと思っているのだが、ところがどっこい撃てるのだ。


 魔道の徒と戦うことになった場合も視野に入れて聖剣エクスカリバーは製造されている。

 それゆえ、敵によって段階的にその機能が解除されたり封印されたりするのだ。

 仮にマーリンクラスの魔道の徒と戦うことになった場合はただの人間でも互角に戦え、ファンタジー系のバトル漫画一直線の芸当だってこなせるようになる。

 まあ、そんな機会があるかどうかは分からないので日の目を見ることは中々ないのだが。


「御二人とも、そろそろ」


 と、竹千代がシニア二人の軽口を諌める。


「おお、すまぬな徳川殿」

「久しぶりの戦争で昂ぶってたらしい。悪かったね」

「いえ、それより……」


 問題は指揮系統だ。

 武田とぶつかるにあたって連合軍が結成された。

 一つは織田軍。

 一つは徳川軍。

 一つは今川軍。


 信長が居るのならば迷うことなく彼が総大将になっていただろう。

 しかし織田軍を率いているのは羽柴秀吉こと藤乃。

 が、徳川は実質従属状態であっても同盟相手。

 その上に藤乃が立つと云うのはどうなのか。


 当人らは気にしないだろうが、そこはキッチリやっておかねばならない。

 総大将など誰でも良いと思うかもしれないがやっておかねば末端で混乱が起きる可能性もある。

 精強な武田軍と当たる以上、不安要素は消しておくのが当たり前。

 で、更に話をややこしくしているのが今川軍だ。


 氏真が率いているのであれば明確に織田傘下なので藤乃か竹千代のどちらかが総大将になれば良かった。

 しかし、氏真は全権を信秀に委ねていて信秀は織田家の先代当主である。

 現当主が生死不明である以上、下手をすれば現役当主に戻る可能性もあるわけだ。

 じゃあ信秀にとなれば今川軍ではなく織田軍を率いてもらうべきだ。


 しかしそうなると今川勢を率いることが出来て尚且つ一定水準以上の能力を持つ将が居なくなってしまう。

 氏真はアウト、藤乃と交代にするにしたっても藤乃は今川をよく知らない。

 駿河に住まい、今川がどんなものかを知っている信秀ほどに能力は発揮出来ないだろう。

 竹千代はうーんと頭を唸っているのだが……。


「わしは総大将にはならん、徳川殿に預けようと思っている」

「おや奇遇ですね信秀様。私も徳川殿が良いと思っていたんですよ」


 信秀が総大将を辞したのは自分が総大将になることで信長が死んでいるかもと思わせたくないからだ。

 それで敵が勢い付いてしまうのは最悪――と云うほどではないが良くはない。

 それならば敢えて前線指揮官として前でバチバチやっていた方が織田は健在であると示せる。

 藤乃は単純に三河者を扱うのが面倒だったから。


 信長ならばまだしも自分では総大将としては軽過ぎる。

 糞めんどくせえ三河武士に不満を溜めさせてやるよりは花を持たせた方が良い働きをしてくれると判断したのだ。

 それゆえ竹千代を総大将に推した。

 総大将に推された竹千代はしばし戸惑うも、


「――――謹んで御請け致しまする」


 その後、細かい話し合いで方針を詰めて連合軍が三河を出立。

 美濃の蝮斎藤道三、尾張の虎織田信秀のシニア英傑タッグ。

 斉天大性羽柴秀吉、絶頂耐久徳川家康のヤング英傑タッグ。

 老若入り混じった夢の混成軍と甲斐の虎武田信玄率いる武田軍による三方ヶ原の戦いがこうして火蓋を切った。

 史実を知る信長が居ればこりゃ面白いと爆笑していたことだろう。


 大方の予想通りに三方ヶ原でぶつかる両軍。

 数で勝る連合軍、しかし質で勝る武田軍の戦いは一進一退の様相を見せた。

 信玄からすれば既に幾つもの思惑を外されているので面白くはなかった。

 その思惑外れの一つが今川の降伏だ。


 ハッキリ云ってしまうと信玄は氏真を見下していた。

 実際に能力は低いので無理もないかもしれないが、侮り過ぎていたのだ。

 氏真は家臣らに突き上げられて即座に降伏すると思っていた。

 そこで北条氏康の娘である早川殿と信長の父である信秀を確保しようと考えていたが結果は御覧の有様。

 取り引き材料にしようと考えていたものがなくなり、北条と云う後背も気にしなければならなくなった。


 確かに氏真は大名としては底辺だし信玄にとってはオムツも取れていないような小僧なのかもしれない、だがそれが何だ?

 若人は成長するのだ、老いた人間よりもずっとずっと成長するのだ。

 信玄のような天才からすれば微々たるもので鼻で笑われるようなものかもしれないが確かな成長がある。

 氏真とて父義元が討たれ、織田の傘下に入ってから無為な時間を過ごしていたわけではないのだ。


 時折信長に会いに行き影響を受け、近場の信秀を父のように慕い様々な薫陶を授けてもらって着実に成長していた。

 その結果が男の矜持を見せ、大胆な判断へと繋がったのだ。

 窮鼠猫を噛む、正にその格言通りである。

 虎は鼠に噛み付かれて予想外の痛手を被ってしまった。


 齢を重ねたことによる驕りと焦り、それに加えて義元の大きさが信玄の読みを狂わせたのだ。

 今川義元と云う強大な敵とバチバチやり合っていただけにその凄まじさはよく知っている。

 ゆえに自然と義元と氏真を比較してしまい、侮りが生まれてしまった。

 その結果、快進撃は止まり三方ヶ原での足止めである。


「肌がひりつくようなこの感覚、久しく味わっとらんかったわい……! にしても、ええ動きをする奴がいやがる」


 指揮を執る信秀は戦場の空気にあてられたのか、気持ちが若返っていた。


「旗印は六文銭、武田の六文銭と云やぁ……武田二十四将に数えられる真田だったか?

いやしかし、何処か若さも見える……真田幸隆ではなくその子、と見るのが正しいかのう」


 パッパ大正解である。

 信秀が良い動きをしていると云った隊を率いてバリバリ攻め立てて来ているのは誰あろう表裏比興の者、真田昌幸。


「(やれやれ、旦那様は大変みたいですが……あの日告げたように、わたしくはぁ……強い方の味方)」


 昌幸は敵兵を蹴散らしながら信長のことを考えていた。


「(このままわたしくが取られてもよろしいので? ものに、してくださいな)」


 獅子奮迅の戦いぶりを見せる昌幸。

 さりとて心の中では、未だ生死がハッキリしない信長を想っていた。

 それでも戦の手を緩めない辺りいっそ見事なほどに心と身体が分けられている。

 さて、老いも若きも大暴れの三方ヶ原。


 そこでの戦が数日続いた後、両陣営にある情報が齎された。

 信長、並びに織田家本軍の帰還である。

 同時に信長が京で起こした事件についても知らされるがそれはまた別途で詳細に語るとしよう。

 連合軍にとっては士気の高揚する吉報であり、武田にとっては凶報。

 それでも未だ戦は続くであろうと高を括っていたのだが……。


「……退き始めた?」


 武田が撤退を始める。

 それぞれの場所で戦っていた家康、藤乃、信秀、道三は不審に思った。

 いずれは撤退するだろうとは読んでいた。

 しかしそれはもう少し痛撃を与えてから。

 タイミングとしてはもうしばし後だと読んでいただけに不気味でしょうがない。


「……罠、ですかね?」

「……罠、で御座りましょうか?」


 と、ヤング傑物タッグはそれぞれの場所でそう判断していた。

 実際それを思わせる退き方だったので普通は藤乃らが正しいと思うだろう。

 深追いして痛手を負うよりも、出血を最小限に留められた結果を以って良しとする。

 しかし、


「機だね、追撃をかけるよ!!」

「こりゃあ簡単に奪われた領土を取り返せそうだなぁオイ!!」


 シニア傑物タッグは此処が仕掛け時と見た。

 ヤングもシニアも共に甲乙つけ難い優れた将である。

 しかし、判断の差を分けたのはその経験。

 齢を重ねることでしか得られない嗅覚が蝮と虎をフィーバーさせる。


 結果から云うのならば追撃を仕掛けた二人は奪われた領土を丸々取り戻してみせた。

 武田にとって見れば軍を動かし消耗したにも関わらず何も得られることが出来ない戦いだったと云うことになる。

 連合軍にとっては消耗はあったものの、奪われたものを取り戻せたので悪い結果ではないだろう。

 いや、攻められたこと事態が最悪と云うのならばその通りではあるが。


「一体、何があったのでしょうか?」


 武田を退けた領土を奪い返したとは云え直ぐには帰れない。

 不審な撤退がある以上、もう少し軍を留めて様子を見るべき。

 そう判断した藤乃は竹千代の居城岡崎城へと留まっていた。

 信秀は氏真と今川軍を駿河に帰したが信秀本人は岡崎へと留まった。


「……道三殿、信秀殿、一体何があったので御座りましょうか?」


 戦が終わって直ぐ、汚れを落す間もなく会議を開いた竹千代は老将二人に意見を伺う。

 武田が撤退を始めた際に即座に追撃をかけた二人ならばと思ったのだが、


「いや、分からんのだ」

「ああ、何が起きたかはさっぱりだね」


 とまあ何とも期待外れの返答。


「あたしが追撃を仕掛けたのは好機の匂いを感じ取ったからだ。信秀、お前もそうだろ?」

「うむ。これは経験が培った戦の勘ゆえな」

「若いあんたらもそのうち身につけるはずさ。ま、中には天性で備えてるものも居るがね」


 その代表格が信長だ。

 彼の勘は神懸り的と云っても良いほどに優れている。

 千年を生きる魔女マーリンですら気付かなかった雪斎の暗躍を感じ取った辺り化け物クラスだ。


「追撃を仕掛けながらあたしも一応、色々理由は考えたよ。

今回の一件で氏康の娘を確保できなかったせいで、相模の獅子が動いたのかとね」


 北条が甲斐へ向け大軍で侵攻したのかとも思ったがそんな情報は届いていない。

 つまりは違うと云うこと。


「それならば上杉かとも思ったが、軍神は織田に宣戦を布告してる。

反信長の旗を掲げている以上、此処は弱った織田を叩くのが正解で武田に攻め入る理由が無い。

あたしが謙信と同じ立場でも今、武田を叩くような真似はしないよ」

「成るほど、そりゃまあそうですよね」


 そうなると答えも限られて来て、だとすればこの勝利は――――。


「運が良かった、そう云わざるを得んな」


 信秀の言葉に皆が頷く。

 外的要因によって軍を退く理由が無いのならば、内的要因と云わざるを得ない。

 そして予想出来る内的要因は、


「信玄に何かあった、と云うことで御座りますね?」


 それ以外には考えられない。


「でしょうね、有り得そうなのは病、陣中で倒れでもしたのかもしれません。

……でも、だとすれば腑に落ちることもあります。

他勢力が宣戦布告して来る中、武田だけはそうしなかった。

それは同盟を組んだままと見せかけて仕掛けることで意表を突くためかと思いましたけど、よくよく考えれば私達に読まれてます」


 それならば開き直って宣戦布告をし、悪名が増える要因を少しでも減らした方が良いだろう。

 裏切りによって悪名は上がるが、増加の要因は一つでも経っておくべきだ。


「軍は用意していたけど寸前まで迷いに迷っていたからこそ、布告を出せなかった」


 信玄の病はそれなりに重いもので、彼自身が患う前に予期していた余命まで保つ可能性は低い。

 であれば大戦略が狂う。

 仕掛けた後でも一定期間自分が生きているのを織り込んで織田を裏切るつもりだったのだから。

 しかし、今回のこれは好機でもあった。実際、勝算もあったのだ――氏真が英断を下さねば。

 氏真が勝利の切っ掛けを作り、陣中で発作が起きてしまったと云う不運が三方ヶ原の戦い、その勝敗を分けたのだ。


「あたしらが運が良いってのもあるし、信玄の運が悪いってのもあるが……ある意味自業自得とも云えるね」

「と、云いますと?」


 まさか道三が裏切りを責めるのかと藤乃が茶化す。


「風林火山さ、アイツ自身が掲げてるじゃないか――――動かざること山の如しってね」


 患っていたのならば焦れて動くべきではなかった――まあ、結果論ではあるが。

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