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偽・信長公記――信長に転生してエクスカリバー抜いて天下布武る俺――  作者: 曖昧


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25/82

25話

 足利義秋――将軍就任と同時に義昭に改名した彼女を擁立し信長が上洛してから数年。

 畠山、北畠らを滅ぼし、現幕府の仇敵たる三好を適度に削り続け織田は更に勢力を拡大していた。

 三好も一息に滅ぼしてしまえるのだが、信長は敢えてそうせず。

 対毛利を見据えた上で――と云うより西方より侵攻して来る勢力へのクッションとしたのだ。


 反信長包囲網が敷かれれば三好も包囲網に――は、加われないだろう。

 三好としては加わりたいだろうし、他の勢力も加わって欲しい。

 義昭としても思うところはあれども信長討伐がために戦力として使いたいだろうがそうもいかぬ事情がある。

 名分と云う意味で大きく差を開けている信長を討つ以上、反信長勢力は細心の注意を払わねばならない。


 これまで日ノ本がために尽力して来た足利に義理を果たす。

 それが反信長勢力が大前提として掲げる名分と云うか言い訳。

 だと云うのに大逆を起こした三好を仲間に加えるのか? 民の不信感を煽ってしまう。

 赦しを与え償うチャンスを? 普段から良き為政者として見られていたならばそれも通るだろう。


 しかし義昭はハッキリ云って評判が良くないので『嘘くせえ言い訳しやがって』としか思えない。

 更に云えば西方から信長を攻める勢力にとっては領土拡大のチャンスでもあるのだ。

 幕府がためと大義名分を抱え西進する途上で、同じく幕府の大敵である三好を討つと云う名分も得られるし三好には敵で居てもらわねば困るのである。

 まだ包囲網なんて影も形も出ていないが、ぶっちゃけ三好は詰んでいる。


 さて、そんな詰んだ三好はともかくとして義昭と信長だ。

 此処最近、二人の関係は悪化していた。

 信長が殿中御掟を定めるなどして将軍の権力を制限し始めたりしたからである。

 これまでは立ててくれていたのに態度を変え始めた信長。


 義昭視点では急に増長し始めやがってマジむかつく! ってなもんだ。

 しかも性質が悪いことに信長は噂をばら撒き情報操作を行い、悪いのは義昭であると民の間に印象を根付かせていた。

 必死で幕府を支えようとしている忠臣と、聞き入れぬ馬鹿殿。

 その構図を作り出して更に義昭からのヘイトを煽る煽る。


 それは何のためか、無論――――暴発の時期が来たからだ。

 もうそろそろ一心不乱の大戦争を始める時期である。

 そう判断した信長は丁寧に丁寧に義昭の暴発を誘う。

 外側から分かり易い形で義昭を誘導するのが信長であれば内側から味方の振りをして誘導するのが藤孝。


 藤孝は宣言通り、約定を果たした信長の家臣となった――表向きは幕臣のままだが。

 それゆえ包囲網の絵図も知らされており、そのために内側から暗躍しているわけだ。

 だもんで暴発するのも近いかなと信長は高を括っていたのだが、これで中々我慢強い。

 義昭はまだ我慢している。誰かに入れ知恵されているのかと思い藤孝に確認を取ってもそんな様子は無いらしい。


 藤孝もこの我慢強さを不思議に思っていたのだ。

 それで入れ知恵している者が居ると思い信長に云われるよりも先に探っていたのだがその様子も無い。

 じゃあ義昭の成長? いや、それも無い。あり得ない。

 若干の不穏を孕みながらも関係は未だ継続。

 ならば次なる手をと考えていた矢先、義昭から信長へ指令が下った。


『度重なる上洛要請を無視する朝倉を幕敵として排除せよ』


 結論から云うのならば信長は素直に従った。

 包囲網の際に朝倉を討つつもりであったが、早めに勝家の拠点を確保しておくのも悪くはないと考えたのだ。

 浅井が同盟として存在している以上、包囲網初期から上杉と接敵してもまあ耐えられる。

 そう判断したがゆえに信長は自ら軍を率いて越前侵攻を決意。


 史実では織田・徳川連合軍による侵攻だったが此度は織田家オンリー。

 史実よりもでっぷりと肥え太っているからだ。

 それゆえ竹千代にはわざわざ三河から出張らせる必要もないだろうと信長は軍の出動を要請しなかった。

 そして、史実と違い浅井と朝倉関係の盟約を結んでいない浅井に援軍を頼まなかったのにも無論理由がある。


 浅井の名声が下がってしまうことに配慮したのだ。

 あれだけ朝倉に恩を受けたのにそれを仇で返すのか――と。

 なので傍観、傍観でも評判は下がるだろうが直に攻めるよりはマシだろう。

 しかし無論、そんな思いやりだけではないのもまた事実。


 浅井家に居る親朝倉派の人間が余計なことをしないか、その監視と抑止力のため長政を近江に残したのだ。

 越前深く食い込んだところで万が一にも親朝倉派の人間が反乱染みた真似で軍を起こせば挟撃になってしまうから。

 ゆえに朝倉討伐は織田家オンリーで。

 信長は三万の兵を率い将として柴田勝家、滝川一益、森可成、池田恒興、丹羽長秀、明智光秀、松永久秀らを伴い越前へ侵攻。


 次々と城を落とし破竹の勢いで進撃する織田軍。

 朝倉側は成す術もなく追い込まれていく。

 誰もが勝利を確信していた。この状況から負けるはずがないと。

 しかし金ヶ崎城を落としたところで、あまりにも信じられない報が信長に届けられた。


「あ、浅井家が裏切り申した! 浅井長政が自ら軍を率い北近江より我らを挟撃せんと侵攻中とのこと!!」


 その瞬間の信長や諸将の衝撃は計り知れぬほど大きかった。


「誤報を申すな! 浅井が裏切る理由が何処にある!? 朝倉の苦し紛れの攪乱でしかないわ!!」


 勝家が報告に来た兵の胸倉を掴んで怒鳴り散らす。

 確かにその通りだ、裏切る理由もないし、状況的に見ればどう考えても朝倉の策だろう。

 しかし、


「……撤退だ!!」


 信長は即座に撤退を決意した。

 それは史実を知っているからだけ、ではない。

 順調に勝利を積み重ねて行く度に、深く朝倉領土へ食い込む度に、胸がざわついていたのだ。

 そして伝令兵がやって来た時点でざわめきはピークに達した。

 勝家の言は正しく、信長にも長政が裏切る理由など分からず根拠なんて微塵も無い。

 しかし、浅井が裏切る理由は分からずとも分かることも確かにあった。


「此処で退くと!? 信長様、どうかご再考を!!」


 勝家、タッキー、森、池田らが口々に考え直すよう云い募る。

 これは敵の策、退いてしまえば敵の思うツボであると。

 しかし、長秀と光秀、そして久秀だけは何も云わなかったが、彼らの顔色は悪い。

 恐らくは自分と同じことを考えているのだと信長は悟った。


「ああ、お前らの言は正しい! 俺にだって長政が裏切る理由なんて分からねえよ!!」


 最後に文を貰ったのは一月ほど前だがその時だって片鱗すら見えなかった。

 初と江、娘達が可愛くてしょうがない、今度家族の茶会に自分達も招待して欲しいと、義弟と心温まるやり取りをしていたのに。

 このタイミングで裏切る理由なんて分かるものか。

 長政裏切りの報は信長にとっても青天の霹靂以外の何ものでもない。


「でもなぁ、これが義昭の我慢強さの理由だったらどうする!?」


 その言葉に勝家ら再考を願い出ていた家臣達がハっとした顔をする。

 そう、家中でも中々暴発しない義昭について幾度も議論が交わされていたのだ。

 京へ外交のために赴き、直に義昭と顔を合わせた家臣は誰もが不審がっていた。

 あれでどうして暴発しないのか、急に賢くなった? いいや違う。そのような感じではない。


「し、しかし……あのうつけの傍には細川殿が…………」


 そう反論する勝家の語気は弱い。

 彼にも分かっているのだ、


「その藤孝の目を欺けるような奴だからこそ! 俺らをこんな状態に追い込めるんじゃねえのか!?」


 つまりはそう云うこと。

 義昭が確率変動を起こしたとか覚醒したとかそんなことはない。

 変わらず馬鹿なままで事実として義昭は傀儡にされて良いように操られているだけなのだ。

 信長にとって御し易い人間であれば、姿形の見えない黒幕にとっても御し易い人間に決まっている。

 一定水準以上の知能があれば義昭のコントロールは可能だが藤孝まで欺く辺り凄まじいやり手であることは明白。


「撤退だ、良いな?」


 虚報であったとしても、それはそれで仕方が無い。

 少なくとも疑念がある中で残り、危険を晒すよりは間抜けを晒した方が大分大分マシ。

 

「…………少数による撤退、越前敦賀から朽木へ。供廻りは最小。弁舌に長け機知に富む松永殿を」


 長秀が強い意思の籠もった瞳で進言する。

 極限状態に陥っているからこそ、長秀は即座に最善解を導き出す。

 言葉は少なかったものの、他の者達も極限状態ゆえ頭が冴えて居た。それゆえ直ぐに理解する。


「殿はこの明智十兵衛光秀に御任せください」

「明智殿、私もお付き合いしましょう」

「この可成もお付き合い致しましょうぞ。某は武辺者ゆえ、此処で死しても出血は最小限で済み申す」


 光秀、タッキー、森の三人が殿を名乗り出る。


「……すまん、頼んだぞ光秀、タッキー、可成」

『ハッッ!!』

「勝家、一時的に総ての軍権をお前に委譲する。一兵でも多く美濃へと帰してやってくれ。そして、お前も必ず帰って来い」

「御任せあれ!!」

「勝家だけじゃねえ、他の皆もだ。全員、生きて帰って来い! 

俺の覇道はお前達の存在無くば立ち行かんのだと云うことを決して忘れるなよ!?」

『ありがたき御言葉!!』


 皆が一斉に跪き、力強い声を上げ信長の背を押す。

 信長はほんの一瞬だけ瞳を閉じた後、久秀を含む僅かな供廻りを連れて撤退を開始。


「信長様、こりゃあ……」


 併走する久秀が苦い顔で信長に語りかける。

 話しかけられた当人は、久秀よりももっと苦い顔で頷く。


「……ああ、してやられた……! こっちが主導権握って包囲網敷くことはもう出来ねえ!!」


 黒幕が誰かは分からないが、信長に明確な敵意を持っていることは明白。

 此処で死ねばそれで良し、生き延びたとしても苦境を免れない状況を作っている。


「どうやって知ったとか、どうやって長政を裏切らせたとか、そんなことは分からん。

が、黒幕は確実に俺の大戦略を看破してやがった……! 糞、やってくれるぜぇ……!!」


 まあ昨今の関係悪化からすれば大戦略を読み取ることも不可能ではないかもしれない。

 だとしても四方を敵に回すと云う大戦略、いざその時が来るまでは半信半疑だろう。

 しかし、黒幕は何故かは分からないが確信している。

 こんな状況に追い込まれた以上、楽観など出来ようはずもない。

 読まれていると云う前提でこれからについて考えるのが当たり前。


「あの、妾は……」

「ああ、分かってるお前がバラしたなんて思っちゃいねえよ」


 自分を好いていることは分かっている、不利益を齎すことはないだろう。

 久秀が裏切る時はまあ、来るだろうがそれはまだ先のことだと信長は考えている。

 一方、即答でお前を信じていると云われた久秀はこんな状況でありながら頬を染めていた。


「既に、藤孝に悟られぬように書状は行ってるんだろうな。

俺が浅井に裏切られて逃げ出したって情報が広まれば速攻で動くだろう」

「でしょうな。毛利、本願寺、延暦寺、上杉、武田――直ぐに織田へ痛撃を与えられるのは寺社勢力と武田」


 つまるところ、もう包囲網は始まっていると云っても過言ではない。


「だろうな。寺社勢力が蜂起し、あちこちで一揆が起こるだろう。

そして武田は間違いなく裏切る、同盟関係だが虎のオッサンに義理なんて期待してねえ」


 それにそもそも武田に関しては昌幸の情報から初めから裏切ることを知っていた。

 知っていて、それを利用すると決めて信長自身も同盟を受け入れたのだ。

 破ることを前提とした同盟で、武田からすれば当初の予定とは違うが攻めるには十分なタイミングだ。

 下手をすればこのまま織田を食い破られる可能性だってある。

 勝負のかけ時を見誤るほどに、甲斐の虎は耄碌はしていない。


「だが、不幸中の幸いだ。マーリン、藤乃、帰蝶、竹千代、姑殿に佐久間……頼りになる奴らが居る」


 三河には竹千代が、美濃にはそれ以外に名を挙げた者達が居てくれる。


「それに、駿河にゃあ親父殿も居てくれる。判断さえ誤らなければ武田に致命を喰らうことはないだろう。

不安なのは俺の生死が定かになっていない状況で判断をくださねばならんと云うことだが……」


 マーリン、藤乃、帰蝶、竹千代が特に心配だ。

 正確な判断を下せるのは藤乃か竹千代、そして半兵衛辺りだろうが、混乱で動きが即断出来ねば痛手を被ることになる。


「……だから、今は信じるしかねえ。アイツらは大丈夫だって、俺は信じている」


 必ず自分と云う大黒柱不在の間に起こる危機的状況を乗り越えてくれる。

 そう信じ切った信長の表情はこれまでに比べ幾らか和らいでいた。

 そして久秀は、


「……」


 そんな信長を見て信を向けられた者達に向け度し難いほどの嫉妬を滾らせていた。

 何故、何故この場に居る自分よりも遠くの、自分よりも劣る者達にそんな顔を……。

 今まで妾はそんな顔を向けてもらったことがないのに、と。

 決して軽んじられているわけではないと分かっては居る。

 しかし、重く捉えられているかと云えばそれは他の女達に比べると全然だ。

 重臣以上になれない、個人として信長に重んじられていない――とそこまで考えて久秀は思考を打ち切った。

 今はそんな場合じゃないだろう、此処でこんなことを考えて判断を鈍らせればそれこそ無能ではないかと。


「信長様、上手く撤退出来たらどうされるので?」

「フン……やられっぱなしは性に合わねえ。とっとと危機を脱し、その足で京へ向かう」


 時間との勝負だ、タイミングを逃せば今考えている嫌がらせは通じない。


「――――目にもの見せてやらぁ」

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