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偽・信長公記――信長に転生してエクスカリバー抜いて天下布武る俺――  作者: 曖昧


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21話

 藤孝が去って半年後、再び彼は美濃に帰還した――今度は足利義秋を連れて。

 現れた義秋は何と云うべきか、そこそこの年齢のはずなのに……。


「む、此方の顔に何かついておるのか?」

「いえ、あまり麗しいものでこの信長、少々見惚れてしまい申した(子供にしか見えねえなぁ……可愛いけどさ)」


 パッと見十二、三歳程度の生意気そうなガキにしか見えない。

 少々気の強そう――と云うより自尊心が高そうな面構えで目も吊り上がっているが可愛いは可愛い。

 しかし体型もそうだが髪型も子供っぽいものだからやけに幼く見えてしまう。


「……むほっ」


 本人的にはお世辞だと軽く受け流してクールな自分を演出したかったのだろう。

 いや、今も出来ていると思っているのかもしれない。

 しかし褒められた嬉しさでついつい笑い声が漏れてしまった。


「(むほってお前)」

「まあ、尾張の田舎者とは違う洗練された美しさゆえ見惚れるのも已む無しじゃがのう!

しかしそなたと此方では流れる血に違いがあり過ぎるゆえ遠目に見るだけで我慢せよ! むほほほ!」


 至極扱い易い人間だ、至極扱い易い馬鹿な人間ではあるが……。

 信長と義秋のやり取りを遠めに見ていた家臣達は信長を馬鹿にされて怒るよりもむしろ戸惑っていた。


「……細川殿、無礼だ何だと申すつもりはありませぬが……大丈夫なのですかアレ?」


 ひそひそとタッキーが隣の藤孝に語りかける。

 彼の目的からすれば担ぎ上げるのは誰でも良いのだろう。

 しかし、どちらが上でどちらが下かも理解していなさ過ぎる。

 態度一つで追い出されてもしょうがないのに本人はまるで気付いていない。


 織田はまあ、後々のことを考えれば見下された発言の一つ二つは軽く流してしまえる。

 賞賛すべきは朝倉である。朝倉でも義秋はきっとあの調子だったのだろう。

 朝倉も名門ではあるが、しかし彼女はきっと自分の方が偉いと信じて疑っていない。

 相当舐めた口を叩かれたはずだ。


 それでも我慢して利用しようとしたのは普通に偉い。

 権力を握るためだから多少のことは我慢して当然――と思うかもしれないがどっこいそれは違う。

 傀儡は馬鹿である方がありがたいが、馬鹿過ぎても扱い難い。

 気位も高いし、擁立したとしても下手をすれば逆に損を被る可能性だってある。


 義秋を見るにその可能性は割と高い。

 それならばいっそ放り出してしまえば良いと云うのにギリギリまで粘った。

 朝倉の我慢強さには敵ながら天晴れとしか云いようが無い。

 いやまあ、補佐に藤孝が居るから大丈夫だろうと云う勝算もあったのだろうが。


「お、お恥ずかしい限りで……」


 初めて美濃に来た時もそうだが藤孝は質素――と云うよりみすぼらしい格好をしている。

 他家ならばともかく将軍家に仕える者としてはあんまりにもあんまりだ。

 それでも見苦しく見えないのは本人の気品ゆえ。

 ハッキリ云って今の足利は貧窮している。


 藤孝など灯篭の油にさえ事欠き社殿から油を分けてもらうほどだ。

 だと云うのに義秋はどうだろう? 実に華美な装いをしている。

 実際はこの時代の公家などザ・貧乏なのだが現代人が想起する馬鹿な貴族イメージそのまま、それが足利義秋。

 困窮の原因は義秋の我が儘三昧も一因であったのだろう。


 それでも藤孝としては自身の本懐を遂げるためにも義秋に機嫌を損ねられてもらっては困る。

 そう云い聞かせて我慢し、四苦八苦しながら必死に支えていたのだろう。

 そんな藤孝の苦労は第三者にも伝わっていて織田家の家臣達の中には目頭を押さえている者まで。

 タッキーなども亡き主君への忠を貫くためとは云えようやると素直に感心している。


「しかしまあ、此方としてはありがたいことですがな」


 あのような馬鹿殿だ、暴発させるのは容易い。

 それに暴発させて最終的に将軍の座を追われ死んでしまったところでさして罪悪感も沸かぬ。

 信長がどうするかは分からないが生かして浪人にするのならば少々過剰とも云える温情だと思う。

 それほどまでに価値が無い。いや、女としては見た目が良いので娼婦ぐらいには使えるだろう。

 しかし武家の棟梁としての価値は皆無。心置きなくイジメることが出来ると云うものだ。


「にしても……信長様は随分と……その、手馴れておりますな……あの手の人間の扱いが」


 藤孝の視線の先には談笑している信長と義秋が居た。

 二人は実に楽しそうで、驚いたのは義秋だ。

 我が儘放題だし気分屋だし癇癪持ちだし機嫌が悪くなることなどしょっちゅう。

 だと云うのに此処まで一度も機嫌を損ねていない。


 確かに義秋は馬鹿で操りやすくはある。

 しかし、それを差っ引いても動かせると云うだけで機嫌が良いわけではないのだ。

 こうこうこうだから、ああしなければならないし、そうした方が義秋にとってプラスに働く。

 そうやって騙くらかしてやればホイホイと動かせるがそれだけ。


 機嫌をとり続けると云うのは奈良を脱出してからの付き合いである藤孝にも出来ていない。

 会話をしていればちょこちょこ臍を曲げるし、鬱陶しい。

 ご機嫌取りはして機嫌を直させることは出来るが不機嫌にさせないと云うのはこれが中々難しいのだ。

 しかし信長は何なくそれをやってのけている。


 それは前世でこう云うタイプを嫌と云うほど相手して来たからだ。

 その中で掴んだ要訣にこう云うものがある――――相手を好かねば良い付き合いは出来ない。

 藤孝が機嫌を損ねるのも表面上は上手く振舞っていても結局のところ義秋を好いていないから。負の感情を持っているから。

 察しが良いわけではないし、義秋本人も気付いていないだろう。


 それでも自分を好かぬ相手と接し続けていれば機嫌が悪くなってしまうもの。

 まあ、自覚が無いので本人にも不機嫌の理由は分かっていない。

 それゆえあっさりと機嫌を直す会話に巻き込まれてしまう。

 が、信長は義秋を好いている。悪感情ですらも好意に転換してしまうのが上手いのだ。


 馬鹿、操り易いと云う侮り、それは負の感情で好意ではない。

 しかし信長はこう考えることで好意に変換している。

 義秋が馬鹿なおかげで自分は恩恵を賜ることが出来る、自分に良いものをくれるのだ、何と可愛い女だろう。

 ありがとう、ありがとう義秋。君のおかげで俺は俺の野望を果たすことが出来る。大好きだよ――と。


「まあ、女心がよく分かる御方ですからなぁ……」


 もっとも好意の転換にも弱点はある。

 自然に好けるようになってしまったことで相手を嫌い難いのだ。

 ついつい好きになれる部分を探したり、短所でも良い方向に変換してしまう。

 それが何を招いたか、分かり易いのは信勝だ。


 好きになってしまったがゆえに悪感情を受けても嫌いになれず大人の対応をしてしまった。

 あの場合は悪感情に怒り大喧嘩でもしていた方が良かったのに。

 確かに信秀の邪魔があったものの信長のこの癖が無ければ感情のままに弟と喧嘩が出来ていたかもしれない。

 総ては結果論でIFでしかないものの、だからと云って総てが総て的外れと云うこともないだろう。


「成るほど、見習わねばなりませんな」

「はは、だとしてもあそこまで行き過ぎるのもどうかと思いますがな」


 正室たる帰蝶を除いても、周知されているだけでマーリンと藤乃、竹千代。

 そして周知されていない部分を探ってみればどれだけ信長と関係した女が居るのか。

 普通の男であれば一度や二度の人生では口説き落すことは出来ない人数と質のはずだ。


「噂では老婆とも……」

「老婆とな!?」


 良い女であると認めれば構わず喰っちまう性癖はやはり一般的ではないらしい。

 戦国時代、ロリには優しくても行き過ぎた年上趣味は流石にアブノーマルが過ぎるのだ。


「(何か好き勝手話してやがるなぁ、アイツら)」


 信長はにこやかに義秋の対応をしつつ、時折横目で唇を読み取っていた。

 声は届いていないもののタッキーと藤孝の会話は筒抜けだ。

 読唇術、これは前世から身につけていたものではない。

 元服直後の諸国漫遊の際に元忍だと云う人間から教わったのだ。

 基本何でも出来ると云う自負に違わず軽く教わっただけなのに今ではすっかり使いこなしている。


「義秋殿、今直ぐにも軍は起こせますが実際に動くのは一月後と考えております」

「むにゅ、何故じゃ?」


 確実に不機嫌になるであろう言葉だったが義秋は不思議そうな顔をするだけ。

 彼女はすっかり信じ切っているのだ、信長が自分にぞっこんであると。

 ぞっこんだから絶対自分の益となる働きをすると当然の如くに確信している。

 だからこそ一月の猶予も何か理由があるのだと考えている――おめでたい思考回路だが人間これぐらいが幸せなのだろう。


「正当なる足利将軍、義秋公が京へと帰還する。それを大々的に広めねばなりますまい。

発表したところで何も直ぐに日ノ本全土に広まることはなく、それ相応の時間が必要。

今直ぐ軍を起こして不意打ちのような真似をして上洛するのは下策でしょう――義秋殿の威光が翳り申す」


 凄まじく雑で凄まじく中身の無い方便だった。


「な、成るほど……うむ、流石は音に聞こえた古今無双の名将信長殿よな!!」


 しかも通じてしまった。

 成り行きを見守っていた家臣達からすれば言葉も無い。

 馬鹿なの? ホントに馬鹿なの? どうしようもないくらい馬鹿なの? ともう戸惑いっぱなしだ。

 流石に普段はもう少し賢いのだが、思考能力が奪われてしまっているのだ。


 信長を信じ切ってしまっているからこそ思考と云うものを捨ててしまった。

 此処に至るまでの会話で信長は誰よりも義秋の信を勝ち取った。

 しかしだからこそ、その信が裏切られたと思った際の暴走を期待出来ると云うもの。

 激昂し、周りの制止すらも聞かずに蛮行へと走ってくれるだろう。


「(ううむ……何て可愛い奴なんだ。嫁さんにも彼女にもしたくねえけどヤるだけなら案外悪くないかも……)」


 さて、義秋の帰還を大々的に発表するその理由だが当然先ほど語ったそれとは別に存在している。

 これは三好らを除く畿内に点在する小勢力への『お前達はどうするの?』と云う布告だ。

 足利に従うかどうかではない、織田に従うかどうかである。

 後の反信長包囲網を見据える上で畿内の勢力がどう動くかを知っておきたいのだ。

 此処で従属を願い出る者はまあ良いだろう。


 実際にその家の当主と面談し、その器を見極められる。

 賢明且つ度胸があり決断力に富む人間ならば反信長包囲網の際に頼れる味方になるはずだ。

 小人物であるのならば反信長勢力から脆い場所と見当をつけられて揺さぶりをかけられたりはするだろうが気を配っておけば上手く利用出来る。

 従わない勢力に関しては包囲網が敷かれる前にあれこれ難癖つけて攻め入り潰すつもりだ。

 包囲網の際に畿内で反抗勢力になられるのも風見鶏になられるのも面倒だから。


「(高飛車御嬢様陵辱……みたいな?)」


 腹を黒くしているかと思えば脳内を桃色に染めている――何とも忙しい男だ。


「と云うわけで、しばらくは当家でごゆるりと寛いでくだされ」

「うむ、良きに計らえ!」


 ちやほやしろ、甘やかせ、義秋の本音が透けて見えるようだ。


「藤乃」

「ハッ! 義秋様、どうぞこちらへ。宴の準備が整っております」


 にこやかな顔で義秋をこの場から連れ出す藤乃。

 信長の家臣と云う補正ありきならばよっぽどのことがない限り癇癪を起こされることはないだろう。

 それでも念には念を入れて一番、目端が利き人心の扱いを分かっている藤乃をつけた。

 これで我が儘娘の方は良いとして……。


「半兵衛、布告後の畿内各勢力はどう動くと思う?」

「筒井は当家に従属する可能性大であるかと」

「ほう、何故だ?」

「我らは筒井にとって敵ではありませんが、しかし我らの敵は筒井の敵ですからね」

「松永久秀か」

「左様」


 大和郡山城城主筒井順慶はハッキリ云って不幸な人間だ。

 父の死により二歳で家督を継ぐものの領土拡大の機と見るや久秀は弱った筒井を迅速に襲撃。

 その際、順慶の後見人であった叔父の筒井順政は久秀に破れ領地を奪われ堺へと追いやられてしまった。

 そしてそこで身体を悪くして故郷に再び帰ることもなく病死。


 叔父と云う後ろ盾を無くしてガタガタだったところに久秀は更に猛攻をかけ順慶は居城を追放される。

 幼い彼を見限り多くの家臣が出奔した。

 そこから順慶は雌伏の時を経て凄まじく難儀した末に居城を奪回し今に至る。

 ハッキリ云って松永久秀に対する憎悪は半端ではない。


「しかし、どうもあそこの動きを見るに松永に気を取られすぎているきらいがあったんだが……」


 端的に云って視野狭窄。

 天下のことなど知ったことかと松永のみを標的にしている筒井。

 臣従して、なんて手を考えるとは思えない信長だった。


「大戦略発表後、私自ら足を運び個人的な友誼を結んで参りました。

その際に信長様の他者の心を掴む術を参考にして、迂遠ではありますが多少視野を広く……ね。

それにあそこには島清興と云う天下に名が知られておらぬのが不思議な男もおりますゆえ、時流に乗り遅れる心配はないかと」


 もっとも半兵衛が教育を施す前であればその島ありきでも乗り遅れていた可能性はあるが。

 ちなみに島清興とは左近の名でよく知られているだろう。

 そう、秀吉亡き後の豊臣を支えた石田三成、彼に過ぎたる者の一つとして数えられた島左近である。


「……初耳だな。つか、先を見据えてのことなら俺に打診しとけよ。俺普通に許可するからよ」


 交際費やら諸々、申告せなば出すものも出せない。

 半兵衛の様子を見るにこれは自腹を切っていると見て間違いないだろう。


「でしょうな。しかし、外交――家同士の付き合いともなれば流石に他所に知れ渡ってしまいます」


 半兵衛が根回しをし始めた時点で公の外交を始めてしまえばどうなるか。

 信長が畿内で地盤固めをしていると見られてしまう。

 義秋と云う名分を持っていたのならば幕府を裏から牛耳るための根回しだと誤認させることも出来るが当時はまだ藤孝が訪れてすらいなかった。

 それを待って始めても良かったのだが準備には時間をかけるべきだと個人のまま押し通した。

 そうしなけなれば何をするかは看破されずとも、無駄な警戒を煽ってしまうから。


「ふぅ……主君思いで泣けてくらぁ。褒美の一つでもくれてやらねえと気が済まねえよ」


 何が良い? と問うてみれば、


「では信長様と一晩しっぽりむふふと……」


 半兵衛は速攻で答えを返し、


「いや、それ以外で」


 信長は速攻で断った。

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