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偽・信長公記――信長に転生してエクスカリバー抜いて天下布武る俺――  作者: 曖昧


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19/82

19話

 先ず光秀を家臣にしない場合だ。

 その場合は、彼は朝倉に戻るのだろうか? それならば一番楽だ。

 朝倉攻めを行う際に諸共にぶっ殺してやれば良い。

 降伏して来てもドサクサ紛れで殺してやれば将来の禍根は断ち切れるだろう。


 今感じている桔梗の香り、それが意味する不吉は未だ分からない。

 それでも死んでしまえば、殺してしまえば流石に大丈夫だろう――いや、大丈夫なのか?

 信長自身、まるで己に云い聞かされているようで疑念が拭えない。

 まあそれはさておき朝倉に戻らない場合も問題だ。

 そのまま行方を晦まされてしまえば、目の届かぬ場所に行かせてしまったら。

 今から暗殺者を用意しても時間が足りない。


 厄介なことになる。

 何を考えているのかが分かっていればそれもありだろうが現状、信長は何一つとして理解していない。

 曖昧模糊な不吉、せめて実像の一端だけでも掴めていたのならば良かったのだが。

 先々のことを考えるのならば家臣にしないと云う選択肢は消える。


 では、家臣にする場合。

 監視下に置ける、しかし訳の分からない爆弾を内側に抱え込むことになると云うデメリットもある。

 が、藤乃や半兵衛ら目端が利く者が同僚として光秀の傍に居るのだ。

 何か変事があれば気付いてくれると期待するしかない。


「藤孝、光秀と云う人間の能力について忌憚なき私見を聞かせてくれ」


 藤孝自身がどうするかをまだ聞いていないが、先ずは先に答えた光秀からだ。

 信長は多少なりとも光秀を知る藤孝にどの程度なのかを問うた。


「政戦両面で八面六臂の働きが出来る逸材。軍事面では鉄砲隊の指揮が特に目を引きますな」


 史実でも評価されていた部分だ。

 此処でお世辞を口にする理由もないので藤孝の評価は確かなものなのだろう。

 まあ、藤孝が見誤っていたのならば話は別だが優れた人間は優れた人間を知るのだ。

 その鑑定眼に狂いがあったとしても誤差程度だろう。


「成るほど……」


 ふむ、と考える仕草をしてみると光秀が口を開く。


「実は私、この美濃往き朝倉の人間には内密にしておるのです。

もしみ越前に身を寄せておられる義秋様を信長様が受け入れてくださると云うのであれば……」

「主家にとっての不利になるから帰れぬ、か」


 一向一揆やらで動けないだけで朝倉としては将軍を擁立したいのだ。権力を握るためにも。

 だと云うのに内密に美濃へ行き内密に織田へ将軍擁立の打診をしている藤孝を手伝っている。

 もうその時点で背任行為だ、つまり自分には帰る場所が無いと云いたいようだ。


「いいや、受けずとも義理を通すのならば帰れぬわな。何食わぬ顔で仕事を続けるのは厚顔にもほどがある」


 本人が実際そんなことを考えているかはともかくとして、建前はそれだろう。


「その通りに御座います。ゆえ、私は御慈悲をくださればと頭を垂れることしか出来ませぬ」


 織田に就職したいなー! って云ってチラチラこっちを見ているような状態。

 余ほどに光秀は織田家に加わりたいようだ。


「(内部から崩すとかそう云うんじゃなくて純粋に俺の傍に……って感じだな。だがその理由が分からんのだよなぁ……)」


 しかしまあ、藤孝の評価も聞けたし腹は決まった。


「末席に加えてやろう」


 どの道、これから優秀な人材は幾ら居ても足りなくなるのだ。

 不確定だろうが何だろうが、気をつけつつ上手く利用してやるのが器量と云うもの。

 そして、いざと云う時は秘密裏に謀殺出来る用意も整えておこうと決意し信長は最終決定を下す。


「あ……ありがたき幸せ!!!!」


 畳に額を打ち付けるような勢いで頭を下げる光秀。

 頭を上げた時、額から血が滲んでいたが本人はまるで気にしていない。

 どうやらよっぽど嬉しかったようだ。


「己が総てを以って俺に尽くせ――――良いな?」

「ハ! 魂魄の一片に至るまでこの身は総て信長様が御為に」


 さあ、これで一先ず光秀問題は片付いた。

 少なくともこの場でこれ以上あれこれと考えても時間の無駄である。

 ゆえ、次は藤孝だ。


「藤孝、お前はどう思う?」


 一応は季節になぞらえた問い掛けだったのだ。

 此処までやっといて今更と云えば今更だが一応それに沿った言葉で促すべきだろう。


「……」


 瞳を閉じて口を真一文字に結び、じっと黙り込む藤孝。

 それは決意を固めているようにも見えた――いや、実際に決意を固めているのだ。


「偽りなき私心を此処に晒させて頂くのならば」

「うむ」

「義秋様の将軍就任、それは幕府のためだとかそう云うことでは御座いませぬ」

「つまりそこに忠はないと?」

「はい」


 あっさりと現主君たる義秋に対する忠義は無いと云ってのけた。

 それは少し――いや、かなり意外であった。


「では何のために?」


 信長は藤孝ほどの器量を持つ者が足利から離れないのは忠義だと思っていた。

 何せ斜陽極まりない、沈む船とも形容出来る室町幕府だ。

 他所へ往けば確実に今より良い待遇を得られるはずなのに、足利から離れない。

 忠義だと考えるのが自然だろう。


「……信長様は生まれながらの王。誰ぞに仕えて阿ることなど一度も考えなかったのではありませんか?」


 その通りだ。

 今、天下を目指しているのは信勝の夢のためではあるがそれだけではない。

 家を継ぐ以上は誰にも阿りたくはない、誰の風下にも就きたくはないと云う信長の我欲も孕んでいる。

 自分は自分、自分の行動を誰ぞに決められたくはないからだ。

 そのために頂点に立つ、ありとあらゆる者達の。


「まあ、そうだな。誰かの云うことを聞くのが嫌な性質で……精々は親父殿ぐらいだろう」


 信長がこれまで気を遣い、自身の意を正誤以外で曲げようと思ったことがある相手は信秀のみ。

 それは主君どうこうではなく単純に信秀が親だから。

 親に対してはこの世に生を受けたと云う一点で絶大な借りがあるのだ。

 好きになれないような親ならば信長も云うことは聞かなかっただろうが信秀は好きになれる親だった。

 だからなるべく自分の意を通しつつも、信秀にだって配慮していた。


「(だが、そう云う意味でお袋にとっては不孝な息子だったな……)」


 今は亡き母、土田御前。

 あちらからは嫌われていたが、信長自身は嫌っていなかった。

 まあ、だからと云って信秀のように好きだったわけでもないが。

 好意を抱けなかったから信長は土田御前に対して配慮を見せたことが一度もなかった。

 信勝に殺された際も『ああ、残念だな……』程度にしか思わず。

 改めて振り返ってみれば親不孝な男だと自嘲が零れてしまう。


「ですが、私はそうではありません。生まれながらに誰ぞに仕えることを定められておりました。

そしてそのことを不幸に思ったことはなく、むしろ当然なのだと考えています。

しかし、だからと云って好き嫌いが無いわけではありません」

「そりゃそうだ。人間なんだもの、好悪はあって当然だろう」


 そう、藤孝にとってはその好悪こそが重要だった。


「私が御仕えした先代将軍義輝様は信長様にとっては取るに足らぬ御方なのかもしれませぬ。

しかし、私はあの人が好きだった。好きだったから、義輝様のために命を惜しまず使おうと思えたのです」


 征夷大将軍だから義輝を好いているのではない。

 義輝と云う一人の人間を純粋に好いていたからこそ、斜陽の足利から離れることはなかったのだ。


「幼少よりの不遇に負けず、何時だって不屈を謳っておられた。

よく笑い、よく怒り、実に素直な感情を露にされる御方でした。

私は、その姿に尊敬の念を抱いたのです。自分には無い光をこれでもかと輝かせるあの御方にこの上なく憧れた」


 だからこそ、このままでは終われない。

 終わってなるものか、自分に生き残った意味があるとするのならば成さねばならぬことがあるのだ。


「無謬ではありませんでした、諌めても愚挙を犯すこともありました。

しかし、だからと云ってあんな……あんな死に方をして良い御方ではなかった……!」


 御所に攻め入られ、自ら太刀を取り奮戦。挙句の果てに四方より刃に穿たれ絶命。

 それが征夷大将軍の姿か、何と惨めなことか。

 死ぬにしても、もっと相応しい、別の形があったのではないか。

 武家の棟梁として誇り在る死を迎えて欲しかった――そう思うと悔やんでも悔やみきれない。


「最早我が忠を捧げるべき義輝様は居らず。

死した存在に囚われ続ける気はありませぬ、それは義輝様も御望みにはなられないから。

それでもこのまま何もせぬまま前へ進むわけにはいかぬのですよ、私は」


 これまで静かな湖面のようだった藤孝の表情が赫怒に染まる。


「力が無いから悪い、それが戦国の習いと云うのならば確かにその通り。

義輝様が死したのは足利に力が無かったから、それは私も納得しております。

だが! それが、このまま何もせずに居る理由にはならない!!

義輝様亡き後の将軍が誰になろうが知ったことではない。

しかし、あの三好や松永如きに室町の幕府を好きにさせてなるものか!!

今在る、奴らが築いた幕府を壊してこそ義輝様への報恩と云うもの。

忘恩の輩として未来へ進むような厚顔を晒すくらいであれば腹を掻っ捌いた方がマシだ!!」


 ダン! と力強く打ち付けられた拳。

 藤孝の怒気はこの場に居る者総ての肌に響くほどに激しい。


「俺に壊せと云うか」


 藤孝の言を聞き、信長もようやく理解した。

 彼は室町幕府の再興など狙ってはいないのだと。

 あくまでも一矢報いたいだけ、主君義輝を無様に散らせた三好三人衆や松永久秀に。

 お前達の思い通りにはならぬのだと、有頂天より突き落として哂ってやりたいのだ。


「然り。それさえ叶えばその後、室町の幕府が滅んでしまおうとも知ったことではありませぬ」


 例え幕府が継続しても義輝は戻って来ない。

 義輝が不名誉な死を迎えた事実は変えられない。

 ならばどうなってしまおうとも藤孝からすればどうでも良かった。


「ならばお前は何を差し出す? 天魔を相手に何ら代償払わず願いが叶うとでも?」


 まあ別に、ハナから話に乗るつもりなので代償は要らないのだが。

 それでも藤孝の覚悟のほどを確かめておきたかった。


「彼奴らの思惑が打ち砕かれたならば、私の身を捧げましょう。

忠ではなく、恩義。恩義を胸にこの命、信長様の御為に使い果たすことを御約束致す」


 そう云い切った後で藤孝の頭が冷えて来た。

 気付けば空気に呑まれて感情のままに本音を叫んでいたがこれは……と。

 あれ? これで断られたらどうしよう……と正直不安になっていた。


「忠ではなく恩、か。素直なことだ」

「あ、いや……それは…………」

「良いよ」

「え」

「だからやってやるっつってんだよ。元からやるつもりだったし、何より良いものを見せてもらった」


 ふぅ、と満足そうな吐息を零す。


「己を偽り新たな忠誠を、とかやられるよりゃよっぽど良い。

俺は素直な奴が好きでな、困ったことにお前のことが大好きになっちまった。

良い男だよ、お前。俺が太鼓判を押す、さぞや女にモテるだろうぜ……いやいや、お前の女になる奴ぁ幸せ者だ」


 カラカラと快活に笑う信長にしばし唖然としていた藤孝だが……。


「――――ありがたき御言葉」


 素直にそう返した。

 忠臣は二君に仕えず、正にその通りだ。

 信長の家臣となっても藤孝は忠義を捧げない、ならば二君に仕えたことにはならないだろう。

 しかし、だからと云って信義が置けぬ男ではない。

 それは先の啖呵を聞けば瞭然と云うもの。

 信長も忠を求める気はない、恩義によるもので十分だから。

 受けた恩を返すために全霊を尽くすと云うのならばそれは無私の忠にも負けず劣らず。


「将軍擁立の件、そして三好らをぶっ潰すって頼むは確かに承った。それと……」

「何でしょう?」

「昔、俺へ暗殺者を差し向けた件についてもチャラにしといてやるよ」


 その瞬間の藤孝は生きた心地がしなかっただろう。

 黙ってことの成り行きを見守っていた当事者の一人である藤乃やマーリン以外の家臣、光秀はポカーンとしている。

 え? 暗殺者? それは一体どう云うことなんだ――と。

 信長は顔面蒼白になった藤孝を見て悪戯な笑みを浮かべる。


「察するにありゃ、ほぼ義輝の独断だったんだろ? 良いよ良いよ、気にすんな。俺も今となっちゃどうでも良いし」


 言葉通り、怒ってはいないのだろう。

 だからこそ藤孝は問うた。


「……何故、知っておられるので? 義輝様の命を受けた者らが吐いたのでしょうか?」

「いや、三好らに殺される前の義輝公の焦りが見える行動……ありゃ何でかって考えてたんだよ」


 聖剣を持った己が不気味な静寂を保っているから――それも一因としては存在しているのだろう。

 だとしても、少々焦り過ぎだと考え直して推測を立てたのだ。


「その反応を見るに当たってるみたいで何よりだ」

「……か、カマをかけられましたか」


 自信満々に指摘するものだから確たる裏づけがあるのだと欺かれてしまった。

 とは云え、藤孝が何時も通りであればカマをかけられることもなかっただろう。

 こうなってしまったのはひとえにまだ立ち直れずに居たからである。


「ああ、ついでにあの厄介な墓碑やらも消しといてやるよ。

嫌がらせでマーリンにやらせたもんだが、さっきも云ったが正直今はどうでも良いからな」


 そう云ってマーリンに視線を向けると一つ頷きを返して指を鳴らした。


「終わったわよ」

「だってさ。これからはもう気にしなくて良いぜ」

「は、はぁ……しかし、何故……」

「お前ほどの男を惚れさせるんだ、義輝公も良い男だったんだろうぜ。愚行を犯すことはあっても、な」


 その男に対する餞、ひいては細川藤孝と云う人間への敬意だ。


「お前自身の手柄だよ、俺がこうしたのは。だから、何時か浄土へ行った時は義輝公に報告してやんな」

「……ハッ! 御配慮、ありがたく!!」

「ところで藤孝よ。お前、義秋については何かないのか? 幕府を滅ぼすにしても生かして欲しいとか」

「それはまあ、義輝様にとっては可愛い妹? 可愛い……まあ、妹……のはずなので生かして戴けるのならばありがたいですが」

「そこは可愛い妹って言い切ってやれよ」

「ま、まあそれはともかく。あまり高望みをするつもりはありませぬ」


 だからその判断は信長に任せると云うことだろう。


「ふぅん……ちなみに、どうなんだ? その妹ってのは」


 人柄やら能力を知らない信長が軽い好奇心で訪ねてみると、


「――――ドがつく馬鹿に御座ります」


 実に良い笑顔で返されてしまった。

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